スーパーのバイト先のノロマ年上女。すっとろくて仕事ができない癖に、身体だけはやたらでかくて豊満すぎる巨女の穂村美羽に体臭フェロモン漬けにされて、生物としての格差を植え付けられてしまう話。 (Pixiv Fanbox)
Content
【キャプション】
プレイ概要 ※ネタバレ注意
プレイの種類:女体圧迫、耳舐め、呼吸管理、ぱふぱふ、太ももコキ、手コキ、寸止め、キス手コキ、ディープキス、腋フェロモン、太ももリフト、靴の臭い責め、足見せつけ、足臭責め、踏みつけ足コキ、足指コキ、足臭呼吸管理、デカ足、足に向かってオナニー
ジャンルの種類:体格差、ファーストキスを奪われる、格差
##P1 穂村美羽という巨女@仕事のできない穂村さん、バックヤードで迫られる、穂村さんの身体、壁ドン、女体で圧し潰される、囁き責め、耳舐め、呼吸を奪われる、窒息ぱふぱふ、太ももで擦られる、指フェラ、ファーストキスを奪われる、動けない状態で手コキ、寸止め、キス手コキ、射精命令
##P2 相変わらず仕事はできない穂村さん@近寄ってくる穂村さん、キス責め、ディープキス、腋見せつけ、腋フェロモン責め、太ももリフト、射精許可
##P3 やっぱり仕事ができない穂村さん@穂村さんの靴の忘れ物、靴の匂いを嗅いで自慰行為
**サンプルここまで**
**ここからご支援者様向け**
##P4 仕事のできない穂村さんのお説教♡@穂村さんの尋問、デカ足見せつけ、ソックス足臭責め、踏みつけコキ、陥落、『足の匂いを嗅ぎたい』というおねだり強要、生足誘惑、羞恥責め、足の臭いで呼吸管理、足指コキ、顔面踏まれながら床の上でペニス踏まれる、“様”付け強要、顔踏み、足に向かって腰振ってオナニー強要、連続射精、格差植え付け、土下座後頭部踏みつけ、気まぐれビンタ+手コキ、痛みと快楽を結びつけられる
##P5 エピローグ@穂村様のために仕事をさせていただく、本当の穂村美羽は……♡
********************
【ボリューム】
・文字数:無料公開分合わせて約6.8万文字
・AI生成挿絵:表紙差分含めて31枚
・AI生成動画:なし
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表紙
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##P1 穂村美羽という巨女@仕事のできない穂村さん、バックヤードで迫られる、穂村さんの身体、壁ドン、女体で圧し潰される、囁き責め、耳舐め、呼吸を奪われる、窒息ぱふぱふ、太ももで擦られる、指フェラ、ファーストキスを奪われる、動けない状態で手コキ、寸止め、キス手コキ、射精命令
「──三番レジ、応援お願いします!」
店内放送が流れた瞬間、俺は手にしていた段ボールを床へ置いた。
時計を見る。
十八時十二分。
夕飯直前のピークが始まった。
「はい、今行きます!」
胸元につけたインカムへ返事をしながら売り場を横切る。
途中、通路の真ん中に放置されていた台車を端へ寄せ、ついでに棚から落ちかけていた菓子袋を戻す。レジへ向かいながらでも目についたことは片づける。
それくらいはお給料をもらっている以上は当たり前のこと。
その後三番レジに入って十数人の列を捌き、客足が落ち着いたところで離脱。
そのまま飲料売り場へ戻る。
さっき途中で置いた段ボール。
その隣には、まだ手つかずの箱が四箱。
十八時半までには終わらせたい。
十九時になれば仕事帰りの客が更に増える。
その前に飲料を片づけて、次は菓子売り場の前出し。
それから閉店前の値下げ値札の差し替えも──。
「……あれ?」
そこまで考えて足が止まった。
牛乳がない。
正確には、冷蔵棚の牛乳だけがごっそり抜けている。
夕方のこの時間なら当然だ。
だから十七時半の時点で補充を頼んでおいた。
「……穂村さん?」
嫌な予感がして振り返る。
いた。
少し離れた乳製品売り場。
ヨーグルトの棚の前に、ひときわ大きな女がしゃがみ込んでいる。
「穂村さん!」
「ん~?」
呼びかけると、ゆっくりと顔だけがこちらを向いた。
──穂村美羽(ほむら みう)、二十六歳。
このスーパーでは大学時代から働いているらしく、アルバイト歴だけなら俺なんかよりずっと長い。
そして、でかい。
身長は確か180センチを少し超えていたはずだ。
以前本人が笑いながらそう言っていた。
背が高いだけじゃない。
肩から腰まで全体的に身体の作りが大きく、そのくせ女性らしい丸みもしっかりある。
制服のエプロンをつけていても隠しきれないほど胸が大きく、腰回りにもかなりのボリューム。
ロングヘアを後ろで結んだ顔立ちはおっとりしていて、垂れ気味の目と相まって、第一印象だけなら優しそうな年上のお姉さん。
実際、性格も優しい。
常連のおばあちゃんなんかには妙に人気がある。
ただし──。
「牛乳の補充、頼みましたよね?」
「あ……」
穂村さんが棚と俺を交互に見る。
そして数秒の後、人差し指同士を突き合わせながら。
「あぁ~……」
ようやく何かを思い出したらしい。
「頼まれてたねぇ……」
「頼みましたよ!」
この人、とにかく遅い。
喋るのも遅い。
歩くのも遅い。
何かを理解するのも一拍遅い。
大学三年になった俺は、このスーパーで働き始めて一年半ほどになる。
自分で言うのもなんだが、仕事はできるほうだ。社員から仕事を任されることも増えたし、新人に指示を出すことだってある。
俺にとって、周りを見て次にやるべきことを考えるなんて特別なことじゃない。
仕事なんだから、それくらい普通だと思っている。
ところが──。
「穂村さん、さっきから何してたんです?」
「ヨーグルト並べてたぁ」
「それは見れば分かります。牛乳を先にって言ったじゃないですか」
「……そうだっけぇ?」
「言いました!」
十七時半。
確かに言った。
『牛乳なくなりそうなんで、ヨーグルトより先にお願いします』
「ごめんねぇ……じゃあ、今からやるねぇ」
「もう俺がやります! 穂村さんはヨーグルト終わらせてください!」
「うん。ありがとぉ〜」
「…………」
どうして俺が礼を言われる側なんだ。
バックヤードへ駆け込み、牛乳のケースを運ぶ。
急いで補充完了。
そして元いた売り場へ。
十八時二十六分。
飲料売り場へ戻らなければ。
「すみませーん!」
今度は客に呼び止められた。
「はい!」
「この醤油、もうないの?」
確認して在庫を取りに走る。
戻ってきたところで再びレジ応援要請の無線。
さっさと列を捌く。
そしてようやく飲料売り場へ戻ったのは十八時四十分を過ぎていた。
予定より十分以上遅れている。
原因の半分くらいは穂村さんだ。
仕方ない。
ちょっと本気出して巻こう。
箱を開けペットボトルを棚へ入れていく。
流れるように。
一本、二本、三本。
頭の中では次の仕事を組み直す。
菓子売り場を五分短縮。
値札交換をその後。
ゴミ捨ては最後にまとめて──。
「あのぉ〜……」
背後から間延びした声。
嫌な予感しかしない。
振り返る。
穂村さんが立っていた。
急に真後ろまで来られると圧がすごいんだって。
「あのねぇ……これ、どこに置くんだっけ?」
肉厚で大きな手の上には見覚えのある商品。
「……穂村さん」
「ん?」
「それ……何年この店で扱ってると思ってるんですか……」
「ん~……?」
考えなくていい。
「チーズの隣です!」
「あぁ~……そっかぁ〜!」
ぽん、と拳を掌に打ちつけ、穂村さんがようやく合点のいった顔をする。
おい、待て。
その巨大な手の上には商品が乗っているんだぞ。
穂村さんの手に比べて小さなカップ。
掌の上にあったそのカップは拳に押し潰され、見るも無惨にひしゃげていた。
これを見て誰が新品だと思うのだろうか。
「あっ……」
俺が穂村さんの手を見て唖然としているのに気づいたらしい。
小さく声を上げた穂村さんが自分の手を見る。
そしてもう一度俺の顔を見た。
「廃棄ですね……」
「ごめんねぇ……わざとじゃないんだけどぉ〜……」
「そんなのわかってますよ!」
「ほんとごめんねぇ〜……」
肩を落とした穂村さんがのそのそと戻っていく。
俺はこめかみを親指と人差し指で押さえ、目を瞑る。
まだだ。
まだ怒るな。
忙しいから余裕がなくなってるだけだ。
穂村さんだって別にサボっているわけじゃない。
むしろ真面目。
真面目に働いている。
真面目に働いて──遅いしありえないミスをするのだ。
「──お兄ちゃん、これ取ってくれる?」
「え、あ、はい!」
高い棚の商品を取ってほしいという老婆に呼ばれた。
ちょうど近くにいた穂村さんが横から口を挟んでくる。
「あ、これですかぁ?」
「ありがとねぇ。あなた背が高いから助かるわぁ」
「えへへぇ〜、こういうときは便利なんですよぉ〜」
にこにこと笑う穂村さん。
老婆も嬉しそうだ。
こういうところは俺よりよほど向いていると思う。
俺なら商品を取って渡して終わりだ。
穂村さんはそこから世間話まで始めてしまう。
客には好かれる。
でも──。
十八時四十七分。
今じゃないだろ……!!
「穂村さん!」
「ん~?」
「話は後! 品出し!」
「あ、ごめんねぇ……おばあちゃんもまたねぇ〜」
「大きな店員のお姉さん、ありがとねぇ〜、またくるねぇ〜」
やっぱり遅い──。
………
それからも似たようなことが続いた。
レジ応援に気づかない。
品出しの途中で客に捕まって、そのまま長話。
俺が頼んだ作業より、後から目についた作業を始める。
そのたびに俺が走る。
指示を変え、予定を組み直す。
穂村さんの穴を埋める。
そうしているうちに、忙しさのピークもようやく過ぎていった。
二十時過ぎ──。
客足の落ち着いた売り場で、俺は大きく息を吐いた。
疲れた。
いつもの倍くらい疲れた気がする。
「颯真く~ん」
その声だけでこめかみが反応した。
「……なんですか」
「あのねぇ、これなんだけどぉ……」
穂村さんが何かを持って近づいてくる。
「このPOP、こっちとこっち……どっち付けるんだっけぇ?」
見れば、片方は通常価格。
もう片方は特売期間用。
今日の日付を見れば分かる。
というより、その見分け方は前にも教えた。
それも一度じゃない。
「…………」
「颯真くん?」
ぷつん。
何かが切れた。
「穂村さん」
「ん?」
「ちょっと来てください」
「え?」
俺は周囲を確認する。
売り場で説教するわけにもいかない。
お客様もいるし、他の従業員もいる。
何よりこれだけは一度きちんと言っておかないと、また明日も俺が振り回される。
「いいから。ちょっと話があります」
「あ……うん」
さすがの穂村さんも俺の声色で察したのか、いつもののんびりした笑顔が少しだけ曇った。
俺は売り場を離れ、バックヤードへ向かう。
背後から、ゆっくりとした足音がついてくる──。
………
従業員用の控室──。
その奥にあるロッカースペースへ入って、振り返る。
少し遅れて穂村さんも入ってきた。
「ドア閉めてください」
「……うん」
──ぱたん。
扉が閉じる。
売り場の喧騒が遠くなった。
静かな室内で、俺は穂村さんと向き合う。
「穂村さん」
「……はい」
俺より五歳も年上。
俺よりずっと長くここで働いている。
それなのに、しゅんと肩を落として俺の前に立っている姿はまるで入りたての新人のよう。
大きな身体を小さくするようにして。
もっとも──。
180センチを超える身体が小さくなるはずもなく。
真正面に立ってみると、やっぱりでかい。
「今日のことなんですけど」
俺はそんな余計な考えを振り払い、口を開いた。
ここで一度、ちゃんと言っておかなければ。
「さすがにちょっとひどすぎます」
「……」
穂村さんは何も言わない。
ただ申し訳なさそうな顔をして、俺の言葉を聞いている。
「牛乳の件は何度も頼んでたはずです」
「……はい」
「ヨーグルトより先にやってくれって言いましたよね」
「……はい、言いましたね」
「頼んだ後すぐに別のことを始めましたよね? だから何度もやり直しになって、俺が全部フォローしてるんですけど」
「……ごめんねぇ」
穂村さんが小さな声で呟いた。
俺はさらに畳みかける。
「ちゃんと聞いてますか?」
「うん……聞いてるよぉ」
「だったら、なんでまた同じことを繰り返すんですか」
「えっとぉ……」
「“えっと”じゃないんですよ」
俺の声は自分でも驚くほど冷たく響いていた。
ロッカースペースの静けさが、その一言一言をやけに明確に反響させる。
「今日だけじゃないです。この前の値引きシールの件も、先週の頼んだ補充を途中で止めて、別の商品を並べてた件もそうです。教えたことをその場では『分かった』って言うのに、次の日にはもう忘れて──」
「ごめんねぇ……」
「謝れば済むと思ってます?」
「そういうわけじゃ……」
「じゃあなんで直らないんですか。七年くらい働いてて、まだ牛乳とヨーグルトの優先順位も分からないんですか」
穂村さんは俯いた。
大きな肩がふっと沈む。
普段あれだけのんびりしている人でも、ここまで言われればさすがに堪えているのが伝わってくる。
分かっている。
これは言い過ぎだということも。
行き過ぎた指導だということも。
でも俺はここで引くわけにはいかないと思っていた。
中途半端に叱って、また明日同じことで振り回されるほうが彼女にとっても俺にとっても良くない。
俺の方が後輩だからといって、変に遠慮する方がおかしい。
「仕事ができないとは言いません。やること自体は丁寧だし、お客さんにも好かれてる。でも優先順位をつけるのが絶望的に下手なんですよ」
穂村さんの唇がかすかに動いた。
「……じゅうよ、じゅうよ……」
「は?」
聞こえなかった。
俺が聞き返すと、穂村さんはゆっくりと顔を上げる。
その瞳は少し潤んでいた。
「優先順位……じゅうよう、じゃなくて、じゅうよ……ん……あぁ〜……」
「優先順位です。ゆうせんじゅんい」
「あ……そうだよねぇ。ごめんねぇ、噛んじゃったぁ……」
……なんでこの人はこうなんだ。
こっちが真剣に叱っているのに、当の本人は言葉の言い間違いに気を取られている。
力が抜ける。
怒りが霧散しそうになるのを、俺はなんとか繋ぎ止めた。
「とにかく、です。仕事には順番があるんです。今やるべきことと後でやっていいこと。それを自分で考えられるようにならないと、いつまで経っても同じですよ」
「うん……ほんとにそうだよねぇ。颯真くんはいつもそうやって先のことを考えて動いてるもんねぇ」
「そういう話じゃなくて」
「分かってるよ〜……。私も颯真くんみたいに、頭の中で順番を組み立てようとはしてるんだよぉ? でも気がつくと目の前のことが気になっちゃってぇ……」
「気になるからって、順番を無視して好きなことから始めるのは違うでしょう」
「好きなことからってわけじゃないの。そのときは、それが一番大事に思えるからぁ……」
「思えても、実際は違うんですよ。結果牛乳が空っぽのまま放置されてた」
「あぁ……そうだよねぇ」
穂村さんが、うつむいたまま一歩前に出た。
俺は気づかない。
「ごめんねぇ。私、颯真くんにいっぱい迷惑かけちゃってるのになかなか直せなくてぇ……本当に、どうしたら颯真くんみたいに仕事できるようになるのかなぁ……」
「だから、そういうことを聞いてるんじゃなくてですね」
「聞いてるよぉ。私、颯真くんの言うことちゃんと理解したいの。だから、ね?」
もう一歩。
穂村さんのつま先が、俺のつま先のすぐ手前にまで近づいた。
そこで初めて気づく。
ん?
なんか近くないか?
ふわりと、何かの匂いがする。
汗……ではない。
もっと生温かくて甘い。
鼻の奥に張り付くような、湿度を持った匂い。
例えるなら、太陽の下で干した布団の隅に残った寝汗のような。
嫌な匂いじゃない。
むしろその逆。
身体の内側を感じさせる、ちょっと安心するような匂いだった。
……近い。
売り場では毎日これ以上近づくこともある。
でもこんな静かな密室で二人きりで、真正面から向き合うといやでも距離を意識する。
「……穂村さん、近いです」
「んぇ?」
「距離。近い」
「あぁ~……ごめんねぇ。私、耳がいいほうじゃないからぁ……」
──ぽすん……。ぶるるんっ……♡
穂村さんの大きな掌が自身の胸元に当てられた。
制服の上からでも分かるほど、その部分が盛り上がっている。
いや、見るな。
今見るべき場所じゃない。
「それにぃ、颯真くんの声ちょっと低いから、ちゃんと聞かないと聞き逃しちゃうのぉ」
「普通に聞こえてると思いますけど」
「若い子の声はねぇ、早口だとぉ、うまく入ってこないっていうかぁ」
俺は無意識に半歩下がっていた。
「……だからって、そんなに近づかなくても」
「そう? でもこれくらいが安心するのぉ。落ち着くっていうかぁ」
「何の話ですか」
「お話聞くときの距離の話〜」
そう言って、穂村さんはまたにじり寄るようにして近づいてくる。
今度は足先がぶつかりそうなほどではない。
もっと身体の前の空間ごと近づいてくる。
スーパーの制服は、サイズが三種類しかない。
M、L、LL。
穂村さんが着ているのはもちろん一番大きいLL。
でもそれすら彼女の身体には頼りなく見える。
生地が伸び切って、胸のあたりのボタンがいまにも弾け飛びそうだった。
──違う、見るな。
俺は目を逸らす。
裕福な主婦とか、自分の体に自信のある女性がそういう巨乳アピールをしてくるのは何度か見たことがあった。
でも穂村さんに限って、意図的にやっているとは思えない。
この人は本当にただ耳が遠いというか、距離感がおかしいだけだ。
「……はぁ〜」
頬に風がかかった。
息だ。
穂村さんの吐息が、顎のあたりを撫でていく。
生温かい。
そして、さっきよりもずっと濃い匂いがその息に混ざっていた。
背筋の下のほう、腰の裏辺りがぴりっと痺れた。
「穂村さん、いったん離れてもらえます?」
また半歩下がる。
背中がひんやりと冷たい。
もうすぐ後ろにロッカーの扉がある。
「えぇ~……なんでぇ? まだ話、終わってないよぉ」
「だから話なら普通に、そこからでいいです」
「普通にってぇ……これ普通じゃないの〜?」
穂村さんは心底不思議そうな顔をしている。
怒っているとかふざけているとかじゃなく、本気で分かっていない顔。
この人は俺と話すときいつもこうなのだろうか──。
いや、売り場ではもっと距離があった。
人目があった。
俺が勝手にうまく立ち回って一定の間合いを保っていた。
それが崩れたのはこの……閉じた部屋のせいだ。
扉を閉めてしまったせいで、世界がここだけ、二人だけになっていた。
天井の照明の音まで聞こえるくらい静かでそのくせ、鼻の奥はずっと甘ったるい熱で満たされている。
「仕事の話の続きです」
「うん、聞いてるよぉ」
「先週の発注ミス、あれもひとつひとつ確認すれば防げたはずです。なんでああなったんですか」
「ん~……あれはねぇ、メーカーさんのコードと商品のコードの桁が途中で並んでるように見えちゃってぇ」
「はぁ……」
「ちゃんとメガネ、持ってるんだけどぉ仕事のときはつけたり外したりが面倒でぇ……。あ、その日はコンタクト付けてたのかなぁ〜……あ、いや、忘れてたのかもぉ……」
「……はぁ」
怒る気が削がれる。
もう本当にこの人は仕事のことを考えさせてはいけない人種なのだ。
俺は深く溜息をついた。
「穂村さん」
「はぁい」
「ちゃんと付けてるから確認してから出社してください」
「じゃあ今度から確認するねぇ」
「今度からじゃなくて、明日から」
「うん、明日からねぇ〜」
言いながら、また穂村さんの身体がゆっくりと前に倒れてくる。
俺の言葉を受け止めるため?
俺の顔を間近で見るため?
いや、何のため?
いちいち近すぎるって、距離が。
「ちょっ、待ってください。だから近いって」
「えぇ? だってぇ、颯真くんが下がるからじゃないのぉ?」
「違います。穂村さんが近づいてくるんです」
「そうかなぁ」
「そうです」
会話している。
いつもの仕事のやりとりのはず。
なのに頭の芯がじんじんと痺れるようだった。
視界に映るもの全部がでかい。
顔の幅も、首の太さも、肩から二の腕へ続くラインの肉付きも全部。
正面に立たれると、俺の視界がほとんど穂村さんで埋まる。
天井の灯りが彼女の大きな輪郭の向こうで、かすんでいた。
ここで初めてこわい、と思った。
そのくせ、どこかで、目が離せなくなっている自分もいた。
「ねぇ、颯真くん」
間延びした甘い声が近い。
吐息が額をくすぐる。
「私ね、颯真くんに言われたこと一個一個は覚えてるつもりなのぉ。でもねぇ、順番にできないのはひとつ終わると、次のことを忘れちゃうからでぇ……」
「それ、自覚してるならメモするとか」
「うん、メモもね、とってるの」
「だったら見返してください」
「見返してるよぉ」
「見返して、その順番どおりに動いてください」
「動いてるつもりなの」
「つもりじゃダメなんです」
「……きびしいなぁ」
悲しそうに穂村さんの眉が下がる。
泣きそうなのか。
いや、どちらかといえば、子供みたいにへにゃりと笑っていた。
「颯真くんは、ほんとに、年下なのにしっかりしててすごいよねぇ」
「年下とか関係ないです」
「そうだけどぉ。私、颯真くんには怒られてばっかりだもんねぇ」
「だったら──……ッ」
一度大きく息を吸おうとして──失敗した。
肺いっぱいに、穂村さんの匂いが入ってくる。
汗と、体温と、甘い匂い。
空調の淀んだ生ぬるい空気を裂くようにして、彼女の身体の匂いだけがやけにはっきりとこちらへ届く。
頭がくらっとした。
「怒られてばっかりじゃなくて、もっと──もっと──」
あれ。
おかしい。
次に言う言葉が出てこない。
「もっと、ちゃんと、してください」
しぼり出すように言った。
大声ではなかった。
今にも消え入りそうな声だった。
「うん〜」
穂村さんが、とろりとした目で俺を見下ろしている。
そうだ、身長差がある。
12センチ、いや、もっとか。
視線が自然と上を向く。
大きな女だ。
頭がぼんやりする。
さっきまであれだけ回っていた口が動かなくなる。
「……なんで、そんなに近づくんですか」
「聞こえないといけないからぉ」
「聞こえてます」
「でもぉ、颯真くん、さっきからちょっと声が小さくなってるよぉ?」
「っ……」
確かにそうかもしれない。
喉の奥が詰まる。
匂いのせいだ。
この距離のせいだ。
この女のせいだ。
「だからねぇ、もうちょっと近くで聞こうと思ってぇ」
「結構です」
「はいはぁい、きこえてるよぉ」
穂村さんが笑いながら首を傾げた。
首が傾いた拍子に結んだ髪の束が、大きな肩の上を流れ落ちる。
甘い香りがさらに強くなる。
働いた後の汗ばんだ首筋が視界の端に入った。
髪の毛が張り付いている。
汗、というだけで。
ただの汗なのに。
俺はごくりと喉を鳴らして、それを悟られないように顔を背けた。
「颯真くん、汗すごいよぉ?」
「は?」
「颯真くんも暑いよねぇ〜。顔真っ赤」
俺の顔よりも大きな掌がひょいと伸びてくる。
逃げる間もなく前髪を、そっと指先で退けられた。
「……触らないでください」
「ごめんねぇ。かわいかったからぁ」
「かわいいとか、そういうの……」
「ん~?」
聞こえなかったらしい。
穂村さんがさらに顔を寄せてくる。
もうだめだ。
背を反らす。
後頭部に冷たいロッカーが当たった。
押し当てられた背中から金属のごつごつとした凹凸が、はっきりと伝わってくる。
「──りかんに、きをつけたほうがいいですよ」
……声が裏返った。
「うん? りかん?」
「距離感……」
言い直す。
舌が回らない。
さっきまでの怒りはどこへ行った。
身体全部の感覚が、前面の熱に向かってゆく。
「きょりかんって……今の距離のことぉ?」
「そうです。もうちょっと、離れてください」
「やだぁ」
即断られる。
しかも、少し楽しそうだった。
「なんで、やだって言うんですか」
「だってぇ」
穂村さんの手が、俺の肩の横を抜けてロッカーに触れた。
がちゃん、と重い音がする。
穂村さんの体重を支えてるのだ。
当然だろう。
「こんなに近くで聞かないと、颯真くんの声聞こえないんだもぉん」
うそだ。
今の声、いつもよりずっと小さいのに聞こえてるじゃないか。
そう言おうとした口が動かない。
穂村さんの胸がもう、触れるか触れないかの場所に来ていた。
LLサイズの着古したポロシャツが、呼気に合わせて上下している。
ここに勤め始めてから一度も新品と交換したことないって自慢げに話してたっけ。
目を閉じる。
駄目だ。
頭が匂いで溶ける。
「それにぃ」
ぬるい空気が耳元で弾ける。
彼女の声が、直接、脳みそに流れ込んでくるようだった。
「颯真くんに、聞こえるように話すにはこのくらいがちょうどいいのぉ……」
耳に唇──。
いや、触れてない。
触れていないのに声の振動が、産毛を伝って広がり、鼓膜を震わせる。
「っ、ぅ」
肩が震えた。
穂村さんの身体が、もう一歩踏み込んでくる。
俺の背中とロッカー、穂村さんの身体とロッカー。
狭い。
流石に距離がおかしい。
早くこの話を切り上げて売り場に戻らなければ──。
でも、その思惑は次の瞬間、簡単に裏切られた。
穂村さんが突然、何かを思いついたように首をかしげた。
「……あのねぇ」
そう漏らし、肩を入れるように体を傾けてきた。
「颯真くん、立ったままだと怒ってるのがあんまり伝わんないからぁ……私が、ちょっと支えてあげるねぇ」
「は? 支える……どういう意味……って、ちょッッ!!」
返事を待ってくれはしなかった。
穂村さんの、あの、女性としては馬鹿みたいに大きい身体がそのまま、とすんと……いや、『どすんッ!』と。
体重を預けてきた。
「っ、ぅあ……!?」
背中に硬いロッカーの金属が食い込み、前面には、柔らかくて厚みのある何かがぐにゅりと沈み込んでくる。
息が一瞬で止まった。
というより、肺の中から押し出された。
「ちょ……穂村さんっ、重た……!」
「んぇ? そんなことないよぉ、支えてるからぁ」
「支えてない! 押しつぶす気ですか!」
「だって、颯真くん、ちっちゃいしぃ……こうすれば、ちゃんとお話できるでしょぉ」
嬉しそうな声だった。
ちっちゃい。
確かに、吐いた息は全部彼女の身体に当たって跳ね返ってくる。
彼女の身体は分厚い。
胸が、腹が、太ももが俺をロッカーごと包み込もうとしている。
柔らかい。
なのに、びくともしない。
この人の身体は柔らかいくせに、何か底の方に強靱なものを持っている。
「……ぁ、くるし……」
圧迫感と同時に匂いが……もう避けようがない。
汗。
甘い揮発性の匂い。
肌のにおい。
服の下から滲み出た、彼女の体温。
鼻で呼吸するだけで、脳の奥がジンと痺れる。
強制的に身体の中へ、穂村さんを注がれているみたいだった。
「み、う……んっ」
口を開けて呼吸する。
すると、より濃い空気が舌の上まで入ってきて頭が、かっと熱くなった。
「颯真くん、顔、まっかぁ」
「……っ、離してください」
「やだぁ。だって今、すごく聞こえてるもんぉ」
「何がですか……」
「颯真くんの、声」
耳のすぐ傍で声がする。
穂村さんの唇が、かすかに俺の耳のふちに触れた。
濡れた感触があった。
舌ではない。
唇だ。
「ひぅ……っ」
情けない声が出た。
心臓が痛いほど跳ねている。
「あはぁ……颯真くん、声、かわいいねぇ」
くすくす、という笑い声が湿った空気を震わせる。
穂村さんは、俺が抵抗できないのを確かめるように更に身体を密着させてきた。
腕が、肩が、俺の身体を挟み込む。
どれだけ身をよじっても、柔らかい肉の壁がそれを吸収して、逃がさない。
まるで、大きな生き物に丸呑みにされていくみたいだった。
「ねぇ、颯真くん」
「……っ」
「怒ってるの? それとも……」
言葉の途中でふっと、鼻先が首筋に触れる。
『すん♡』と小さく音がした。
穂村さんが俺の匂いを嗅いだ。
「……やっぱり。颯真くん、汗すごいかいてる〜。首べたべたしてるよぉ」
「……誰の、せいだと思ってるんですか」
「ん~? 私のせい?」
「当たり前です……!」
やっとの思いで睨みつけると穂村さんは、ただ笑った。
口元が歪み、目まで楽しそうに細められていた。
「あれぇ……おかしいなぁ」
独り言みたいに呟く。
細められた目が、俺の顔の上をゆっくりと滑る。
まぶたの上、鼻、唇、汗ばんだ首筋。
「さっきまでいっぱいお話ししてくれてたのにねぇ。急に喋れなくなっちゃったのぉ?」
そう言われて初めて俺は自分がどれだけ黙り込んでいたかに気づいた。
声を出そうとする。
喉は動くものの、音は出ない。
口腔の天井に舌が張り付いたみたいに。
その代わり、鼻から漏れる呼吸だけがどんどん荒くなっていく。
「んふぅ……♡」
穂村さんが笑った。
仕事中に見せるおばあちゃん相手の、のんびりした笑い方とはどこか違う。
もっと、ねっとりと温度の高い女の笑い声。
「颯真くんってばぁ……こうされると、声、出なくなっちゃうのぉ?」
指が俺の耳たぶをつまんだ。
やわやわと、弄ばれるように揉まれる。
「……ぁ、やめ……っ」
「やめないって言ったらぁ?」
熱い吐息が鼻先にかかる。
唇同士の距離が手のひら一枚分もない。
「お仕事の話、してたのにねぇ。颯真くんが急に黙るからぁ私、どうしたのかなぁ〜って、すごく心配しちゃってぇ〜」
「……っ、それは、お前が」
「んぇ?」
「穂村さんが、近すぎるからでしょ……!」
「近いから? 近いと、どうなるのぉ?」
笑みを含んだ声が這い寄ってくる。
そして、耳の穴に、舌先が、ほんの少しだけ入ってきた。
──ぴちゃ……♡ にゅる……♡
「ひぁ……っ!?」
「くす♡」
自覚する。
仕事の説教どころじゃない。
というより、俺はこの状況で仕事の話を一秒たりとも思い出していられなかった。
頭の中にあるのは、へばつくような匂いと全身を挟み込んでくる柔らかい熱と、耳に入り込んでくる湿った音だけ。
「穂村、さんっ、なにを……」
「なにって……お話、聞いてるだけだよぉ」
「聞くって、こんな……」
「じゃあ、颯真くんが続き話してみたらぁ? この距離なら私ちゃんと聞けるよぉ」
穂村さんが僅かに身体を揺らす。
そのたびに胸と腹が、服越しに俺の身体を揉むように蠢いた。
服の下には汗ではりついた湯気のような熱。
全身が穂村さんの匂いに侵食されていく。
「……はぁ、っ、は……っ」
「あ、息が浅くなってきたぁ。颯真くん苦しいのぉ?」
「そりゃ……こうやって、押さえつけられたら……」
「じゃあ、楽にしてあげるねぇ」
ぐっ、と背中側へ押し出された。
大きな身体が、更に重心を傾けてくる。
「──ぐへぇぁッッ」
呼吸不能。
肺が悲鳴を上げる。
鼻で吸う空気は全部甘ったるくて、重い。
「……ごめんねぇ、これだと余計苦しいねぇ。でも仕方ないのぉ」
耳元でとろけるように穂村さんが囁く。
「私が支えてあげないと、颯真くん、へなへな〜ってなっちゃいそうでぇ〜」
「……っ、ば、かにしないでください……!」
「ばかになんかしてないよぉ」
──くすくす♡
「さっきまでしてたお説教の続き……言ってみてぇ?」
俺は声をひねり出そうとして……失敗した。
唇が開き舌が浮く。
でも、肺から送られる息が声になる前に、喉の奥で霧散する。
出てこない。
なんだ、これ。
自分の身体じゃないみたいだ。
「ほらぁ、颯真くん」
穂村さんの大きな掌が、後頭部へ回ってくる。
そのまま、ぐぐぐ、と。
俺の顔が彼女の大きな胸元へ押し付けられた。
「っっ、ん"っ……!?」
顔面いっぱいに柔らかな肉。
窒息する。
いや、窒息しそうなほど甘い匂いと熱が鼻と口を通して流れ込んでくる。
もがいても、びくともしない。
ロッカーの金具が背中に、がりがりと食い込んだ。
「颯真くん、息、しよぉ?」
穂村さんが俺の頭を、赤ん坊でも扱うみたいに抱え込んで髪を梳く。
「ん……ぁ、んん……っ」
「んふふ、気持ちよさそう。私のおっぱいどう? 柔らかい? それとも、苦しいぃ?」
両方だ。
柔らかくて、苦しくて、気持ち悪いほどあたたかい。
泣きたくなるような、どうしようもない気持ちよさ。
頭の芯がふわふわと浮く。
下半身の中心が硬い。
痛い。
情けない。
「……っ、ぅ、あ……」
声にならない声しか出ない。
手足の先から力が抜けてロッカーにもたれる背中だけが冷たく、それによりかろうじて輪郭を保っていた。
目の裏で甘い熱が明滅する。
自分の体の中で、血液がどろどろに煮えていく。
そのとき、耳の裏を甘い息が吹き抜けた。
「……あれぇ」
その声で。
このひとの声で。
この女の声で。
「もしかして、颯真くんってこういうの、弱いのぉ?」
身体の芯の内側を見透かされたようだった。
ひどくゆっくりとした声。
おっとりしていて、やわらかくてそれでいて、逃げ道を塞いでくるような声。
「颯真くん、お姉さんの匂いでだめになっちゃったのぉ……?」
「……っ、ちが、」
「ちがわないでしょぉ。だって、こっちはもうこんなになってるよぉ……?」
ひときわ柔らかい太ももが俺の中心に、『ぐぃっ♡』と押し付けられた。
「あ"……っ♡」
びくん、と全身が跳ねる。
瞬間、視界の端が白く光り、首の後ろがぞくぞくする。
ロッカーが背中ごしにガタンッと大きな音を立てる。
「うわぁ……すごい。颯真くん、こんなに硬くしちゃって……」
「やめ……っ、さわらないでくださ……っ」
「触ってないよぉ。私、お膝を当ててるだけぇ」
膝。
とても膝とは思えない厚みのある、やわらかな肉。
それが、俺の硬くなった中心をぐにゅり、と圧迫する。
「ひぃ……っ、ん、ぅう……っ」
「あは、声も出ちゃって……かわい〜……♡」
楽しそうな声。
この人は俺が苦しいのに笑っている。
でも。
仕事でいつも間延びした声を出しているときの顔よりずっと……目は煌々と輝いている。
飢えた蛇みたいだと、頭のどこかで思った。
恐ろしいのに目をそらせない。
「穂村さんは……っ、自分の地位、分かって……っ」
「ちい……? 地里? 何それぇ?」
「立場の話です……っ」
「ん~……立場ねぇ。颯真くんは、私が仕事できないからいっつも怒ってるもんねぇ」
太ももがゆっくりと前後する。
──ずり……♡ ずり……♡
「でもぉ〜、今、私に怒れる〜? こんなにびくびくしちゃって、声も出せないのにぃ〜?」
「っ……!」
言葉が出ない。
悔しくて、思わず殴りかかろうとして持ち上げた腕ごと、大きな掌に包み込まれた。
手首が掴まれる。
手の甲がロッカーへと押し付けられる。
「暴れないの」
声の高さが一段階落ちた。
囁くような、言い聞かせるような、それでいて逆らえない響き。
「颯真くんは今から私のお話し聞くんでしょぉ〜?」
「……だれが」
「聞いてくれるまで、動かないからねぇ」
彼女はそう言ってほんとうに、ぴくりとも動かなかった。
一秒、二秒。
頭の奥が、じわじわとおかしくなる。
動く気配がないから俺の敏感になった身体は逆に、穂村さんの脚の肉の圧力と彼女自身の脈動と彼女の肉に押し潰されるような重みと……それら全てを一心に感じ取ってしまう。
「早くぅ、颯真くん、続きお話ししてぇ〜」
太ももが僅かに蠢いた。
服越しに、俺の先端をぐりゅと捏ねるように。
さっき自分から話すと言った癖に、矛盾した命令。
話せ。
今度は一転して話せと命令しているのに、俺をこうして動けなくしている。
身体中の血液が下半身へ集まっていく。
「……ぅあ……っ」
怒りなのか興奮なのかも分からない奇妙な熱が、下半身と頭の芯で同時に鳴っている。
今、やらなければならないのは──。
「……し、仕事に戻らないと……」
「ん〜? もうちょっとここにいようよぉ〜」
「戻らないと……っ」
「じゃあ、言ってみてぇ。私は何を優先すべきかしら〜……?」
視界が埋まる。
あたたかい。
息が出来ない。
匂いがする。
「優先順位を……考えて……」
しぼり出すように答えた。
「んふふ、かわいいねぇ。でもその口調じゃ全然お説教になってないよぉ」
舌が耳の穴をうろちょろする。
──れろっ♡ れろっ♡
「はぁあ……っ♡ や、めろ……ッ♡」
「大人しくしてたら、お姉さんがきもちぃこと教えてあげるのにねぇ……♡」
吐息が濡れた耳の奥を冷やす。
びくりと顎が上がる。
もう逃げ場なんてどこにもなかった。
後ろはロッカー。
前は、豊満であたたかくて匂い立つ、穂村さんの身体。
前門の穂村、後門の鉄の塊。
「教えてもらわなくて、結構です……っ」
「そぉ? 颯真くんの身体は正直なのにねぇ」
言いながら、掴んだ俺の手首を、俺の指を、自分の口元へ持っていく。
肩が震える。
やめてほしい。
それ以上は本当に。
だめだ。
「……んちゅ……♡」
ねちっこい音を立てて、俺の人差し指が穂村さんの唇の中へ沈んでいく。
熱い。
柔らかい。
舌がぬるぬると指に絡む。
「あ……っ」
「指……かわい〜。男の子の手だぁ……細いくせにごつごつ筋張ってる〜……♡ はぁむ……ん〜〜……♡」
──にゅるぅぅぅ……♡
「あ"ッッ♡」
『じゅるり♡』と吸われて膝が震えた。
指先から背筋を駆け上がる甘い痺れ。
「んむ……は……ぁ……颯真くんの指、しょっぱい……お仕事の味……♡」
穂村さんは笑っている。
「私がぁ……んはぁ♡ 舐めてぇ……♡ ちゅぱぁ……きれいにしてあげるからねぇ……♡」
どうしてこうなったんだ。
どうして……この人にこんな目で見られている。
「……ん、ぅ……」
「ふふ、颯真くん、お姉さんのことちゃんと見てぇ〜……?♡」
顔を覗き込まれる。
ゆっくりと、目の前十センチの距離に、汗ばんだ薄い化粧の大人の女の顔があった。
その女の顔が、俺の人差し指を根元まで咥えている。
──れろっ……♡ じゅるっ……♡
視覚と聴覚と嗅覚がごちゃ混ぜになって理性を焼き切っていく。
仕事では俺の指示にいつも一拍遅れて従うだけだった女が、今は俺の反応を一つ残らずつぶさに読み取っている。
もっとも俺はといえば、彼女が促すがままに、脂の乗った肉厚な舌の動きに指を委ねて情けない声を震わせることしかできない状態だった。
「……あ"ッ……♡ んっ……♡」
自分は何か言おうとしていた。
説教を、していたんじゃないか。
いつだ。
もう、いつのことだか分からない。
匂いが……濃すぎる。
太ももの……圧迫が……気持ちよすぎる……♡
「颯真くん……♡」
唇の端を指先から離し、穂村さんが甘く呼ぶ。
「今日はねぇ、私のこといっぱい怒ってくれてありがとう♡ でもぁ……♡」
優しく、労わるように、俺の頬を大きな手が包み込む。
「今は……お仕事の優先順位より……もっと大事なこと……あるんじゃないのぉ……♡?」
「あ……っ……」
「んふふ……♡ ほら、素直にしてればよしよししてあげるからぁ……♡」
穂村さんの体温と匂い、そして圧倒的な質量が俺を押し潰す。
振り上げたはずの拳はだらんと身体の横に。
身体はロッカーと彼女の巨体に。
声も、思考も、逃げ場を失っていた。
「ん……♡ ぁ……♡」
──ちゅぅぅぅ……♡
唇が触れた。
柔らかい。
熱くて、厚みがあって、『にゅぷり♡』と押し付けてくる。
どう動かせばいいのか分からない俺の唇を、穂村さんの唇だけが迷いなく追ってくる。
俺が何かをするより先に、わずかに開いた口元まで穂村さんに塞がれる。
──ちゅ……♡ ちゅっ……♡
「ん……♡ はぁむ……♡ ちゅぅ……♡ ちゅぱぁ……♡」
こめかみがしびれる。
唇から広がった痺れが、頬を伝って頭の奥まで染み込んでくる。
俺はされるがままになっていた。
怒らなければと思うのに、指一本動かすことすらできない。
ゼロになった距離を、ただ受け入れることしかできなかった。
──ちゅぅぅ……♡ ちゅぅ……♡ ちゅっ……♡
離れるたびに触れる熱い吐息。
すぐにまた重なる柔らかな唇。
その感触を追いかけそうになったところで、不意に唇が離れた。
──んはぁ……♡
「颯真くん♡」
大きな手に髪を梳かれ、そのまま鼻先をこつんと合わせられる。
「びっくりしたぁ……?♡」
「は、初めて……初めてだった……のに……こんな……」
やっとの思いで漏らした言葉。
それを聞いた穂村さんが、至近距離から俺の顔をじっと見つめてくる。
「……初めて?」
さっきまであれだけ楽しそうに喋っていたのに、珍しく返事がない。
二秒……三秒……。
ただ俺の目を見ている。
何を考えているのか分からない。
だけど、俺が冗談を言っているわけではないことくらいは伝わったらしい。
やがて、何かに納得したように穂村さんの目元がゆっくりと緩んだ。
「そっかぁ〜♡ 初めてだったんだぁ〜♡」
優しく肯定される。
「ふふふ……♡ 颯真くんの“初めて”……お姉さんがいただいちゃったねぇ♡」
「……っ」
「怒ってた颯真くんもかわいかったけど……♡ 今の颯真くんのほうがぁ、ずぅ〜っと、かわいいよぉ〜?♡」
悪びれた様子は少しもなかった。
むしろ俺のことを何か新しく知ったことが嬉しいとでもいうように、穂村さんは俺の顔をしげしげと眺めている。
一人の男子の大切な初めてを奪ったことの意味くらい分かっているはずなのに。
「……」
「んふふ……♡ 颯真くん、嫌って言うわりに……全然離れようとしないねぇ♡」
小さく笑った穂村さんは俺の首から胸にまで伝っていた汗を根元から長い指でぬぐう。
「べたべただしぃ……♡ 颯真くん、汗の匂いすごぉい……♡ 若い男の子の体しちゃってるよぉ……♡」
ばつの悪さと、ぞわぞわする感覚。
腕が微かに震えた。
「んふふ、安心してぇ……私も颯真くんと同じような匂いに、なってるからぁ……♡」
ロッカーと肉体の間。
熱と熱の混ざり合う空間で、俺は穂村さんの表情を見た。
笑っている。
細められた目でじっとこっちを見下ろされる。
こんな顔するんだ。
「──……あ」
怒っていた俺は、今やただ呆然としていた。
こんな人だったか。
ずっと自分の近くにいたはずの、5歳も年上の、ずっと頼りないと思っていた同僚は、自分よりずっと背が高くて、重くて、匂いの濃い、胸の大きな女だった。
ほんのり汗ばんだ肉の温かみが、心臓の上にのしかかってくる。
怖い。
でも目が離せない。
俺はただ背中の冷たい金属の硬さと、前面の穂村さんの身体の圧倒的な柔らかさの間で、震える呼吸を繰り返していた。
「はぁ、はぁ、はぁ……♡」
ふたたび耳元に唇が寄る。
あたたかい吐息がかかる。
「……んふふ……♡ 颯真くん、ドキドキしてるぅ〜……♡ お顔、まっかだよぉ……♡」
甘い声。
「それでぇ〜、お仕事のお話しだけどぉ〜♡」
穂村さんの分厚い手のひらが再び頬を包み込む。
目を逸らそうとしても逃がしてくれない。
視線が釘付けにさせられる。
「ん〜……何の話だっけぇ〜……?」
にぃぃぃって。
年上の女の目が笑った。
「私、忘れちゃったぁ〜……♡」
「し、仕事のゆうせん────んんんッッ♡」
──ちゅぅぅぅ♡
二回目のキス。
さっきよりもねっとりと。
口を塞がれながら、考える。
ああ、もうだめだ。
冷静に思考できる要素が全て消し飛んでいく。
匂いと熱と、女体の肉の柔らかさ。
「はぁむ……♡ ちゅぅ……♡ んっは……♡」
唇を奪われた。
何度も何度も、キスをされた。
抵抗しようとて、だらんと脱力した両腕は、穂村さんの分厚い二の腕と太い胴体に阻まれていて、ただ惰性で動くのみ。
全身が柔らかい肉に押し潰されて、穂村さんへと沈んでいく。
いや、呑み込まれていく。
「あッ……♡ んんッ……♡」
──ちゅぱぁッ……♡
ボリュームの多い唇が弾ける音。
色っぽい。
視界が狭くなる。
酸素が足りない。
そして彼女が離れた隙に、俺はやっと声を絞れた。
艶めく銀糸が二人の隔たりを繋ぐ。
「穂村さん……やめ、て……」
音は霧散する。
目の前の穂村さんは、微笑む。
「やめないよぉ〜♡ 颯真くんに、私のことわかってもらおっかなぁ〜って……♡」
分かってもらおうって。
分かるだろ。
こんな目に遭ったら、嫌というほど。
汗ばんだ肌と服に篭った女体の匂い。
柔らかく重い肉の圧力。
俺を射抜く視線の湿度も……ようやく、ようやく。
震えながら助けてと訴えかけているのに、何度も何度も何度もキスされて──。
耳元に、分厚い唇が吸い付く。
「んふふ……♡ 颯真くんは、私の言うことなら……なんでも聞いてくれるかなぁ……?♡」
膝が折れようとする。
しかし、ぶっとい太ももに支えられるだけ。
奇しくも、それは最初の穂村さんの言い分の通りになっていた。
潰すのではなく、支える。
「なんでも、では……ない……」
「えらい、ちゃんとお返事できて……♡」
情けなかった。
握り込んだはずの拳は開きっぱなし。
拒絶したはずなのに、目の前の女は拒絶とは受け取ってくれていなかった。
舐められている。
明らかに舐められている。
俺の負けだ。
この場では、俺は穂村さんに敵わない。
敵わないんだ。
だからもう──。
「わ、わかったから……」
裏返った声。
目を伏せる。
「……もう……今日はお仕事の話、するの……やめるから……」
顔が熱い。
耳まで真っ赤だと自分でも分かる。
目を閉じる。
もうこの女の顔も身体も匂いも見たくないし感じたくもない。
これ以上見たら、本当にだめになる。
──くすっ……♡
たっぷりと余裕のある笑い声。
そして、穂村さんが口を開く。
「や〜だぁ……♡ 颯真くんが決めることじゃないでしょぉ〜?♡」
……え?
「ココの優先順位を決めるのはねぇ……♡」
むちむちとした太ももの圧力が少しだけ強くなった。
「私なんだよぉ〜♡」
耳元で囁かれた。
ぞくりとする。
その瞬間にはもう遅い。
「んちゅっ♡」
耳にキスをされる。
濡れた感触。
「あッ……♡」
背筋が跳ねて腰が浮いた。
これではまるで俺の反応を楽しんでいるようではないか。
「颯真くん……♡ これからは私のこと、優先してねぇ〜……♡ んれぇ……♡」
くすくすと笑いながら耳の穴に舌を差し込む穂村さん。
ぴちゃぴちゃと水音がする。
目を固く閉じる。
俺の目の裏で赤い明滅が燃え上がり、身体中が甘い熱に包まれていく。
「……あ"ぁッ♡」
──くすくす♡
うれしそうに笑う女。
耳元で。
この体温。
この匂い。
声。
全部。
そして──。
穂村さんの両手がゆっくりと全身を弄ってくる。
首筋から鎖骨、脇の下や胸板。
そして腹筋をひとしきり撫でた後、身体の中心部へ。
「……あッ♡ んッ♡ んッ♡」
なすすべがない。
圧倒的な体格差と匂いと甘さに、思考をすべて奪われていく。
「──はぁ……♡ はぁ……♡ はぁ……♡」
呼吸を整える。
荒い呼吸を。
ドア一枚隔てた向こう側では、スーパーの営業が続いている。
俺たちが戻らないことに誰も気づいていない。
今日はもう客足も減っているから、たぶん大丈夫だ。
この部屋の中には二人だけ。
狭い密室。
俺は逃げられない。
仕事では俺の指示を待つだけだった彼女に翻弄されっぱなし。
「……あッ♡ んんッ♡ あ"ッ♡」
俺はただ揺れるだけ。
この大きな女の、肉体のうねりに。
甘い匂いと耳の奥を這う舌の熱に。
そしてとうとう──。
穂村さんの分厚い手が俺のズボンに触れた。
帯に手がかかる。
「……やめ……」
「やめないよぉ〜♡ 颯真くん、もう我慢できないんでしょぉ〜?♡」
くすくすと笑う声。
ふたたび耳元で。
「……っ♡」
いっそ殺してくれ。
これ以上、情けない姿を見せたくない。
だが──。
──するするっ……♡
ズボンが下着ごと足首まで下ろされる。
空気に晒された下半身。
急激に上昇した羞恥で顔から火が出るようだった。
ロッカー際まで追い込まれた俺の脚はもうがくがくと震えて、立っていることすら危ぶまれる。
唯一の支えは、穂村さんの身体。
頼ってはいけないはずの相手の身体。
「……ふふ……♡ すごい……♡」
穂村さんの目が、俺の股間を見つめていた。
屹立した先端が、先走りでてらてらと光っている。
「……いやらしい……♡ 颯真くん……♡ 私にお説教しながらこんなに……♡」
「……ちが……っ」
否定しようとした瞬間──。
──ぎゅっ……♡
その動きに躊躇はなかった。
全くの。
穂村さんの巨大な手で俺の一物が握り込まれてしまう。
「──イ"ッッ♡」
声が裏返る。
快楽が即座に全身を突き抜けていく。
背筋がのけぞり、背後のロッカーががたんと揺れた。
「あはは……♡ すごい、硬ぁ〜い……♡ 颯真くん、こんなに頑張って……♡」
「やめ……っ、はな、して……っ」
「はなさないよぉ〜♡ はなすわけないでしょぉ〜……♡」
ねっとりとした声と共に、穂村さんの手がゆっくりと動き出す。
親指の腹が、先端の濡れたてらてらした部分をゆっくりと塗り広げるように擦る。
──にゅる……♡ にちゅ……♡
「あッ……♡ あ、あ、あ"……♡」
声が出る。
自分の声じゃないみたいだ。
情けない、甘くて、高い声。
穂村さんの手が、まるで楽器を奏でるみたいに屹立を扱き上げていく。
──ぎゅむっ♡ ぎゅむっ♡ ぎゅむっ♡
穂村さんの大きな手の中は汗をかき、熱くぬるついていて、滑りが良すぎる。
肉竿を締め付けるふわふわの指の肉。
丸みを帯びた指の段差がカリを引っ掻く。
皮ごと握り込まれ、上下に扱かれるたび、ぴちゃぴちゃと湿った小さく卑猥な水音が立つ。
もう頭が麻痺していた。
日常の、仕事の、あらゆる優先順位が崩れていく。
「ひあ"ッ……♡ まって……っ♡ まって、ください……ッ♡」
「んふふ……♡ 待つ? なんの話ぃ〜……?♡」
「お、俺の話しっ……き、聞いて、ぇッッ♡」
言葉にならない。
口の端からは理性ではなく、涎みたいな熱い呼気が勝手に漏れ出す。
「ねぇ颯真くん……♡ お姉さんに触られながら、お仕事の話、続けてみるぅ……?♡」
「う……あ……♡ むり……♡ むり、だから……っ♡」
「ん〜? 無理〜?♡」
──こりこりっ……♡ すりすりっ……♡
「んあッ♡」
裏筋を指の腹で捏ねられて、白目を剥きそうになった。
腰が跳ね、思わず穂村さんの肩に自分からしがみついてしまう。
みっともない。
「んふふ……♡ 颯真くん……♡ 私よりも弱いねぇ〜……♡」
「うるさ──んあッ♡」
先端を包むように握り込まれ、くちくちと音を立てて愛撫される。
喘ぎが止まらない。
息を吸うたび、穂村さんのにおいが体の奥まで入ってくる。
「んふ……♡ きもちぃ〜……?♡」
知らなかった。
他人に……それも女の人に扱かれることがこんなにも気持ちがいいなんて……。
「ほぉら……♡ 颯真くんのここ、私のお手々の中でびくびくしてるよぉ……♡ お汁もいっぱい……♡」
「や……あ……♡ んはぁ……っ♡」
「まだイっちゃだめだよぉ〜……♡ 私がいいって言うまで、我慢するの〜……♡」
耳元でとろとろに溶けた声が命令として腹に落ちてくる。
ふわふわで柔らかくて大きな手指に、精神ごと握り込まれている感覚。
逆らえない。
従うことだけが正解だと、頭の奥が勝手に理解する。
「颯真くん……♡ すけべだねぇ……♡ お姉さんのにおいかいで、しごかれて……♡ 仕事着のまま、お姉さんの前で喘いで……♡ あんなに怒ってたのに恥ずかしいねぇ……♡」
──ぐちゅっ♡ ぐちゅっ♡ ぐちゅっ♡
握り方が変わった。
きつく握り込み扱き上げる。
竿の根元から先端までを一息に扱き上げる圧迫感。
「んあッ♡ あッ♡ あ"ッ♡ イ"っ♡」
頭の中で火花が散った。
視界が白く明滅する。
膝ががくがくと笑い始める。
もう本当に立っていられない。
気持ちが良くてたまらない。
死にそうなほど気持ちがいい。
「あ、あ、ああああッッ♡♡」
限界を訴える金切り声が喉から漏れる。
「んふふ……♡ イキたいのぉ〜……?♡」
「い、い……っ♡ イかせ……っ♡」
「ん〜……♡ どうしようかなぁ〜……♡」
「おねが……っ♡ おねがい、します……っ♡」
──あぁ、なんて情けないんだろう。
さっきまで怒っていたはずの相手に竿を握られ縋り付いて懇願している。
相手は、普段は俺が注意しなければいけない、俺より年上の同僚。
「颯真くんは私よりお仕事できるもんねぇ……♡ でもぉ〜……おちんちんのお世話はぁ……私の方が上手でしょぉ……?♡」
ああもうやだ。
耳元で笑われながら、息がかかる。
全身の感覚が耳と股間に集約される。
「ひッ……♡ んんッ♡ はぁ……♡ あ、あ"……♡」
「あは♡ ほらほら……♡ 颯真くん、腰、動いちゃってるぅ〜……♡ えっち……♡」
指摘されて初めて気づく。
腰が勝手に前後に揺れている。
逃げようとしているのか、それとも穂村さんの手に擦り付けているのか、自分でも分からない──。
いや、分かっている。
後者だ。
俺は──。
俺は今、穂村さんに手コキされながら自ら腰を振っている。
「あ"ッ♡ んっ……♡ んんッ♡」
──へこっ……♡ へこっ……♡
腰が揺れる。
止められない。
穂村さんの手の動きに合わせて。
自分の意思じゃない。
身体が勝手に──。
「颯真くん、お尻動いてるよぉ〜♡」
見られてる。
全部見られてる。
俺の恥ずかしい部分を、この仕事のできない女に全部見られてる。
仕事の遅く、鈍い、俺より五歳も歳上の──。
「あ♡♡♡」
もうだめだ。
一瞬、脳が真っ白になる。
限界が──。
「い、いく……♡ いくいくいく……♡ んおッ♡ いッッ♡」
「だーめ♡」
──ぎゅいんッッ♡♡♡
手が離れた。
亀頭の付け根を指で弾かれ、巨大な掌によって睾丸を包み込まれた。
そのまま力任せに下方向へと引っ張られ、精子を送り出そうとしていた抽送ポンプを強制的停止させられる@/*
「お"────ッッ♡♡♡」
喉がひきつる。
内腿が痙攣した。
目の前では火花が弾けた。
射精の予兆は頂点を迎えようとしていたのに、突如出口を塞がれ行き場を失った精液が体内を逆流する。
全身の血管が脈打つような激しい不快感。
快楽の境界線すら曖昧な強烈な刺激。
無理やり押し戻された快感が全身を駆け巡る。
「ふぇ……♡ あ……♡ ん……♡」
酸素不足の脳みそでは何が起きたのかすら理解できない。
ただ射精が阻止されたことだけは本能的に分かった。
「んふふ……♡ いけない子だねぇ〜……♡ 私の許可なしにイこうとしちゃ〜……♡」
「あ……♡ あ……っ♡」
言葉が出ない。
余韻が強すぎる。
全身がまだ痙攣している。
射精できなかった強烈な反動が、波のように引いては打ち寄せていた。
「ほら……♡ 颯真くん〜、これからはココの優先順位……私が決めるって言ったでしょぉ〜?♡」
──にちゅ♡ にちゅ♡
また手が動き出した。
ずるずると粘りつくような音を立てて。
穂村さんの濡れた手が先端を緩やかに扱き上げる。
「あ♡ あ♡ あ"……♡」
「勝手にイっちゃだめだよぉ〜♡ 颯真くんの精液はぁ……私がいいよ〜って言った時だけ出していいんだよぉ〜♡」
「そ、そんな……っ♡」
「わかった?♡」
──こりこりっ♡ にぎゅにぎゅっ♡
「あ"ッッ♡ あ"ッッ♡ は、はひッ♡」
何もかも崩壊していく。
潰されていく。
理性も、立場も、強がりも。
そして自分の意思ですら、穂村さんの濃い匂いと快楽の中に溶けて消えていく。
「颯真くん、さっきまであんなにも私のこと怒ってたのにぃ……♡ 今はこんなに可愛い顔で喘いじゃってぇ〜……♡」
「……っ♡ ……っ♡」
「私の匂いで……♡ 私の手で……♡ 躾けられちゃってるんだよぉ〜?♡ わかる〜?♡」
わかる。
わかってしまう。
俺は今この人に完全に支配されている。
仕事のことなんてもうどうでもいい。
ただこの快楽から逃げられない。
この人の手の中で射精したくてたまらない。
「あ♡ あ"……♡ ん"……♡」
──ちゅっ♡ ちゅっ♡ ぢゅろっ……♡
耳の穴に舌を差し込まれる。
粘膜の熱が耳の奥を犯す。
のうが、とろけそうだ。
「んあッ♡ んっ……♡ はぁ……♡」
「んはぁ……♡ ねぇ颯真くん……♡ もうお仕事のこと……忘れちゃったぁ〜?♡」
「……あ♡ ……あ♡」
「答えて……♡」
「……わすれ、た……♡」
頭が空っぽだ。
優先順位も、仕事の指示も、怒りも、全部。
残っているのは穂村さんの手の温かさと匂いと声と快楽だけ。
「えらい、えらい♡ 颯真くんは素直でいい子だねぇ〜♡」
頭を撫でられ、揺さぶられる。
それがひどく心地いい。
「じゃ〜あ〜……♡ ご褒美の、ちゅー……♡」
「ん……♡」
──ちゅぅ……♡ ちゅるっ……♡
キスされる。
甘くて、ねっとりとしたキス。
唾液が混ざり合う。
穂村さんの舌が俺の口の中を這い回る。
──ぢゅるっ♡ ちゅぱぁっ♡ ちゅっ♡ ちゅぅぅ……♡
酸素が足りない。
頭の芯がとろけていく。
そしてキスをされながら──。
穂村さんの手が、再び俺の屹立を包み込んだ。
「んッ♡♡」
──ぎゅむっ♡
強く握り込まれる。
先走りを潤滑油にして、根本から先端までをゆっくりと扱き上げる。
亀頭の裏側のカリを、掌の中で指の段差が弄ぶ。
粘ついた淫らな水音。
──ずにゅっ♡ ずにゅっ♡ ぎゅむっ♡
そして穂村さんの手が明確な意思を宿した速さで扱き上げ始めた。
カリの下を親指が強めになぞり上げ、同時にカリの裏筋を人差し指の第二関節で刺激する。
肥えた手のひらで亀頭全体を包み込み、回すように締め付ける。
目まぐるしい動き。
普段の動作の遅さからは考えられない手淫のテク。
──こりこり♡ にぎゅにぎゅっ♡ にちゅにちゅっ♡
「んん"ッッ♡ いッ♡ い、あ♡」
裏筋を執拗に刺激され、腰が揺れる。
逃げようとするが、全身が巨体に押し付けられて動けない。
それどころか手コキされながら、深く深く唇を奪われる。
分厚くて長い舌が口の中を埋め尽くし、俺の舌を絡めとる。
──ぢゅぅぅ……♡ ちゅるるる……♡ ちゅぱぁっ……♡
息ができない。
視界が白い。
「んッ♡ ん"ッ♡ ん"ーーーッッ♡♡♡」
肺の空気が尽きる。
口を離そうとするが、頭を後ろから抱え込まれて逃げられない。
──ちゅるるっ♡ ちゅぱっ♡ ちゅぅぅぅ……♡
染まる。
染まる。
穂村さんの色に。
快楽の色一色に。
口を塞がれたまま、下半身の刺激は強くなる。
根元から先端まで、ゆっくりとした速度で強めに扱き上げられ、精子が登ってくる抽送動作を助長される。
──ぐちゅっ♡ ぐちゅっ♡ ぐちゅっ♡
ずるずるとした粘液の音。
穂村さんの手の平の指紋の形まで肉棒に刻み込まれそうな圧迫感。
愛撫というよりは搾り取られる感覚。
──にゅるるっ♡ にゅるるっ♡ にゅるるっ♡
限界だった。
穂村さんの唇がやっと離れ、銀糸が二人の唇の間でひかれる。
その時。
「イケっ♡」
ぞくりと背筋が震えた。
女の断定が、頭の奥の最後の栓を外した。
「──あああああっっ♡♡♡ いくっ♡ いくいくいくっ♡♡」
──びゅっ♡ びゅるるるっ♡♡
「でてるっ♡♡ でてるっ♡♡ あ♡ あ♡」
爆発しそうなくらいの射精感が一気に解放された。
身体中の血液が下半身に集められ、先端から強烈に射出される快感。
目を強く瞑り、背を反らしながら穂村さんの手の中で射精する。
ロッカーが背中ごとガタガタと音を立てている。
恥を忘れた喘ぎ声が密室に木霊する。
「あ〜……きもちぃねぇ〜……はぁむ……♡ ちゅぅ♡ ちゅ……♡」
射精の余韻の中で穂村さんに優しく口づけされる。
ぼんやりとした頭。
余韻で揺れる視界。
穂村さんの舌だけが熱を持って俺の口の中で蠢き、愛おしそうに俺の舌に絡む。
「んちゅ……♡ んちゅぅ……♡ ちゅぱ……♡ ちゅぅぅ……♡」
──びゅっ♡ びゅくびゅくっ♡ どぷっ♡ どぷっ♡
精液が溢れ出し続ける。
そのたびに穂村さんの手が優しく扱き上げ、最後の一滴まで絞り出すように指を這わせる。
「よしよしっ……♡ いっぱい出たねぇ〜……♡ 颯真くんえらい……♡ えらいねぇ〜♡」
頭を撫でられる。
優しく。
まるで、言うことを聞いた子供に褒れるような声で。
汗にまみれた顔が胸に押し付けられる。
深い匂い。
あたたかい。
「んふふ……♡ まだ出る?♡」
「……あ♡ ん……っ♡」
──ぎゅむっ♡ きゅぅぅっ♡
最後に一度強く握り込まれ、尿道の奥底から残りの精液が一滴搾り出された。
自分ではしたことのない快感。
身体の奥底から無理やり絞り出す感覚に、竿の根元から先端まで、細かく身震いするような快感が走った。
「はぁ……はぁ……♡ はぁ……♡ はぁ……♡」
全身が熱い。
汗だくになった。
首筋や脇の下や鼠径部が汗と精液と穂村さんの匂いでべとべとになった。
ロッカーにもたれた体がずり落ちて、腰が抜けた。
膝を床に突こうとした瞬間、わきの下をするりとくぐってきた腕に支えられる。
「おっと……♡ へなへなになっちゃったぁ〜……♡」
やわらかい。
全身を支えるように包み込まれる。
そして再び巨大な柔肉の枕に沈み込む。
あぁ、本当にダメだ。
俺はもう仕事に戻れる気がしなかった。
「ごめんねぇ……? ちょっと意地悪しすぎちゃったかなぁ……♡」
そう言いながらも、声はちっとも悪びれていない。
むしろ、すごく満足そうに俺の顔をのぞき込んでいる。
「でもねぇ……♡ 今日のこと、絶対に忘れないでねぇ……?♡」
耳元に唇を寄せられる。
吐息と匂いと熱で蕩けた耳に囁かれる。
「颯真くんと、私の秘密だからねぇ〜……♡」
返事はしなかった、いやできなかった。
身体はもういうことを聞かないし頭の中も真っ白。
ただ穂村さんの胸に顔を埋めながら荒い呼吸を繰り返す。
汗の匂いと体温。
柔らかい肉の感触。
密室の中には二人だけ。
ドア一枚隔てた向こうではスーパーの営業が続いている。
俺たちが戻らないことに誰も気づいていない。
今日はもう客足も減っているから大丈夫だろう。
「じゃ、私は戻るからねぇ〜……♡ 店長さんには颯真くんは体調悪いみたいって言っといてあげる〜♡」
穂村さんは、背中をぽんぽんと二度叩き、ゆっくりと身体を離した。
軋むような乾いた音を立てて、押し付けられたロッカーから解放される。
ぬるりと空気が流れ込む。
冷たい。
さっきまで密着していた熱と匂いが失われて背中が寒い。
急に広くなった視界の中、穂村さんは一枚ハンカチを取り出し、手に付いた精液を丁寧に拭っていた。
床に飛び散った分も丁寧に拭いていく。
その動作は……やっぱり遅い。
下手な掃除のときと同じような、ただ、ゆっくりとした動作。
世間話を始める前と同じ。
いつも通りの、鈍くて、でかくて、おっとりした、先輩バイト。
「……ほら、颯真くん、立てる?♡」
差し出された手。
指には先ほどの精液は綺麗に拭われていたがまだ熱が残っている。
少しだけ匂いも。
躊躇う間もなく俺の手を取ると彼女は自慢の長身と底力を存分に生かして俺の身体を簡単に立ち上がらせた。
その力は……力仕事には定評がある。
ただ、その力は──。
今日ここで得た知識は、絶対に忘れまい。
折れてしまった俺の驕りだ。
彼女の分厚い掌に支えられながら、腰帯を直し制服を整える。
脱がされたパンツももとに戻すように彼女が手伝ってくれた。
精液に塗れたペニスも、である。
「はい、じゃぁ〜颯真くんはちょっと休んでて〜……♡ 私と一緒に外出たらおかしいでしょ〜? 私は颯真くんにお説教された後〜ってことでここから出ていくんだからぁ〜」
こういうところは変に気が回る。
意外と。
そう言って、穂村さんはカビ臭いドアノブをひねり、静かに重いドアを押し開いた。
その背中が閉ざされたドアの向こうに消えていく。
重い足音が遠のいていった──。
……静かだ。
静寂が戻った控室で、俺は一人で荒い呼吸を繰り返す。
鼻の奥にまだ残っている。
彼女の匂い。
汗と体温と、濃い甘い匂い。
背中は冷たいロッカーの鉄の冷たさ。
全身には彼女の感触が残っており、俺の中に刻み込まれていた。
「…………」
顔を覆う。
熱い。
情けない。
これが仕事のできないあの穂村さんだと……?
いいや、ちがう。
俺が接していたのは『仕事ができない同僚』じゃない。
俺より五歳も年上の女で……俺より体が大きくて匂いが濃くて……俺よりずっと成熟した大人の女なんだ。
俺は今まで彼女のことを、『俺が面倒を見てやらなきゃいけない人』だと勝手に思い込んでいた。
でもそれは俺が決めた勝手な優先順位に過ぎなかったのだ。
本当の彼女は……俺が知ってしまった彼女は──。
「……穂村さん」
名前を呼んでみる。
俺の初めてを躊躇なく奪った女。
俺はまだドキドキしていた──。
………
……
…
##P2 相変わらず仕事はできない穂村さん@近寄ってくる穂村さん、キス責め、ディープキス、腋見せつけ、腋フェロモン責め、太ももリフト、射精許可
翌日──。
昨日の出来事が嘘だったみたいに、スーパーにはいつも通りの時間が流れていた。
レジから聞こえる電子音や店内を行き交う客、一定の間隔で流れる店内放送。
そして──。
「颯真く〜ん」
聞き慣れた間延びした声。
振り返ると、穂村さんが品出し用の台車の前で困ったように立っていた。
「これってぇ……先に出しちゃっていいんだっけぇ?」
「…………」
俺は黙って台車を見る。
菓子類と飲料、そして要冷蔵の商品。
昨日教えた。
というか昨日だけじゃない。
何度も教えた。
「……穂村さん」
「ん〜?」
「冷蔵品からです」
「あ」
数秒後、穂村さんが台車を見る。
俺を見る。
もう一度台車を見る。
「あぁ〜……そっかぁ。そうだったねぇ」
ぽん、と手を打つ。
「ごめんねぇ、颯真くん。忘れてたぁ」
「…………」
変わってない。
何も変わってない。
昨日、あの狭い部屋で俺をあれだけ翻弄した女と本当に同一人物なのか。
一晩経てば少しくらい気まずそうにするんじゃないかと思っていた。
俺なんて出勤前から、どんな顔で会えばいいのか散々考えていたというのに……。
当の本人はいつも通りだった。
「穂村さん、昨日も言いましたよね?」
「うん」
「常温の商品より先に冷蔵品。特に今の時期は台車に載せたまま放置しない」
「うんうん」
「……本当に分かってます?」
「分かってるよぉ」
本当だろうか。
思わずため息が漏れる。
だけど、不思議だった。
こうして仕事の話をしている間は、昨日までと何も変わらない。
いつもの俺達バイト戦士。
「じゃあ、それ先にお願いします。俺は飲料やるんで」
「はぁ〜い」
返事だけは素直なのもいつも通り。
俺は台車から離れようとして──。
「あ、颯真くん」
「はい?」
「これなんだけどぉ」
穂村さんが商品を一つ手に取った。
俺に見せようとしたのだろう。
ただ、それだけ。
大きな身体が、何の脈絡もなく俺のすぐ横まで寄ってくる。
「──っ」
反射的に一歩離れてしまう。
「……?」
穂村さんが止まる。
「どうしたのぉ?」
「……な、なんでもないです」
「そう?」
「はい。で、それがどうしたんですか」
努めて普段通りに答える。
昨日とは違う。
ここは売り場だ。
周囲には客も従業員もいる。
穂村さんだって、ただ商品を見せようとしただけ。
分かっている。
分かっているのに。
「これ、こっちで合ってるぅ?」
また一歩、近づいてくる。
「…………」
俺も一歩、下がった。
「……颯真くん?」
「だから、なんでもないですって」
「でもぉ……」
穂村さんが不思議そうに首を傾げる。
その顔を見ないように俺は商品へ視線を落とした。
「それで合ってます。じゃ、俺あっちやってくるんで」
「あ……うん」
逃げるようにその場を離れた。
背後から何か言われる前に、俺は飲料売り場へ向かう。
別に避けているわけじゃない。
仕事中なんだから、担当する場所へ戻っただけだ。
そう自分に言い聞かせた。
だが、その日の俺は穂村さんが近づいてくるたびに何かと理由をつけて離れていた。
バックヤードへ行くタイミングが重なれば先に戻り、休憩が被りそうになれば少しずらし、狭い通路の向こうから穂村さんが来れば、別の通路へ曲がった。
自分でも露骨だと思うものの、二人きりになるよりはマシだった。
そして夕方──。
「颯真くん」
「はい」
「ちょっといい?」
「ここで聞きます」
「……まだ何も言ってないよぉ?」
「…………」
しまった。
顔を上げる。
穂村さんが、きょとんと俺を見下ろしていた。
「いや……なんか聞きたいことあるのかなって」
「うん。あるんだけどぉ……」
いつものゆっくりした調子。
だが今日はそのまま質問が続かなかった。
穂村さんが俺を見る。
少し考えたそぶりを見せて、また俺を見る。
「…………」
「……なんですか」
「颯真くんさぁ」
妙に長い間。
「今日、私のこと避けてる?」
ドキっ。
「……避けてませんけど」
「そう?」
「仕事してるだけです」
「ふぅ〜ん……」
納得したようには見えなかった。
けれど穂村さんは、それ以上追及してこなかった。
「じゃあ、いいんだけどぉ」
そう言って、いつもの調子で売り場へのそのそと戻っていく。
その大きな背中を見送りながら、俺は小さく息を吐いた。
誤魔化せた。
そう思った。
だけど数歩進んだところで、穂村さんの足が止まる。
「…………」
何かを考えるように首を傾げて。
数秒後。
「あぁ〜……」
小さな声が聞こえた。
振り返りかけて、やめた。
その声の意味を確かめるのが、なんとなく怖かったんだ──。
………
それから一週間。
俺と穂村さんの間には、特に何も起こらなかった。
「颯真く〜ん。これって、こっちで合ってるぅ?」
「違います。そっちは明日の特売分です」
「あぁ〜……そっかぁ」
「昨日も説明しましたよ」
「……そうだっけぇ?」
「しました」
「ごめんねぇ……」
いつも通り。
穂村さんは相変わらず仕事が遅くて、優先順位を間違えて俺に注意されては、申し訳なさそうに眉を下げる。
あの日の翌日こそ、俺も彼女を避けていた。
売り場で近づいてくれば離れ、バックヤードで二人になりそうなら適当な理由をつけて先に戻る。
休憩時間まで重ならないようにしていたくらいだ。
だが三日、四日と経つうちに、それも馬鹿らしくなってきた。
何せ穂村さん自身が、何のアクションもしてこない。
俺をからかうこともなければ、あの日のことを口にすることさえない。
売り場で顔を合わせれば……。
「おはよぉ〜、颯真くん」
いつもの調子で手を振って。
仕事を間違えれば……。
「ごめんねぇ……」
いつもの調子で謝って。
俺が強めに注意したところで……。
「はぁ〜い」
やっぱりいつもの穂村さんだった。
そうして一週間も経つ頃には、俺の中にも別の考えが生まれ始めていた。
──やっぱり、あの日がおかしかっただけなんじゃないか。
勤務後で疲れていた。
狭い部屋で二人きりだった。
あんなふうに女の人と密着したことなんてなかったし、何より何もかもが突然すぎた。
だから混乱した。
ただそれだけ。
冷静に考えてみれば、穂村さんは穂村さんなのだ。
「颯真くん、これどこの棚だっけぇ?」
「……チーズです」
「あぁ〜!」
ほら。
これが穂村さんだ。
五歳も年上で、俺よりずっと身体が大きくても、仕事では俺が教える側で、穂村さんが教わる側。
その関係は何一つ変わっていない。
だったら俺がいつまでも意識しているほうがおかしい。
そう思えるくらいには、俺も普段の調子を取り戻していた。
──そんな日の夕方。
「……穂村さん」
「ん〜?」
「これ、なんですか」
俺が指差した先。
品出し用の台車には、飲料や菓子類に混じって冷蔵商品が載せられたままになっていた。
穂村さんはというと、その横で常温商品の陳列を始めている。
「あぁ、それねぇ。今並べてるところだよぉ」
「いや、そうじゃなくて」
「ん?」
「なんでそっちから並べてるんですか」
「…………」
穂村さんが台車を見て俺を見る。
そしてまた台車を見る。
この間がもう嫌だった。
うんざりだった。
「あ」
「……あ、じゃないです」
「冷蔵のほうからだったぁ」
「そうですよ!」
思わず声が大きくなり、近くにいた客がこちらを見る。
慌てて声量を落とす。
「……一週間前にも同じこと言いましたよね?」
「うん……」
「その前にも言いました」
「うん」
「昨日も言いましたよね?」
「……うん」
「じゃあ、なんでまたやるんですか」
「ごめんねぇ……」
しゅんと眉尻が下がる。
以前ならその姿を見れば多少は怒りも収まった。
悪気がないのは分かっている。
本人なりにちゃんとやろうとしていることだって知っている。
だけどこの一週間、俺は何度『まあいいか』で済ませただろう。
違う場所へ置かれた商品を戻し、補充を忘れていた棚を代わりに埋めた。
頼んでいた作業が途中で止まっているのを見つけては、自分の仕事と一緒に片づけた。
そのたびに注意して、『ごめんねぇ』と言われて、次こそはと思って……。
またこれだ。
結局何も変わってないじゃないか。
「……はぁ」
深く息を吐く。
「ごめんねぇ、颯真くん。すぐ冷蔵のほうやるからぁ」
「そういう話じゃないんです」
「……ん?」
「今回だけ直せばいいって話じゃないんですよ。何回同じこと言わせるんですか」
「…………」
穂村さんが困ったように俺を見下ろしている。
まただ。
この顔をされると、俺が細かいことで怒っている悪者みたいになる。
でも違う。
今日こそちゃんと言わなければいけない。
俺が毎回フォローしているから、結局この人は同じことを繰り返すんじゃないのか。
一度きちんと分かるまで話したほうがいい。
そう思った瞬間。
「……穂村さん」
口から言葉が出た。
「ちょっと来てください」
「ん〜?」
穂村さんが首を傾げる。
そして俺自身は少し遅れて気づいた。
ちょっと来てください。
一週間前。
俺はまったく同じ言葉を口にした。
その後に何があったのかまで、一緒になって頭の中へ蘇る。
「…………」
一瞬、喉が詰まる。
別にロッカー室へ行く必要なんてない。
ここから少し離れたバックヤードでも話はできる。
なんなら、客のいない場所へ移動するだけでもいい。
わざわざ、あそこへ行く必要は──。
「はぁ〜い」
間延びした返事。
穂村さんは何も気にした様子もなく、先に歩き出してしまった。
「…………」
その大きな背中を俺は見つめる。
やめるなら今だ。
『あ、やっぱりここでいいです』
そう言えば済む。
なのに。
──何ビビってるんだ、俺!!
一週間、何もなかったじゃないか。
穂村さんだって、あの日以来何もしてこなかった。
そもそも今回は俺だって分かっている。
不意打ちでもない。
疲れて混乱しているわけでもない。
仕事の話をするだけだ。
それに、ここでやめたら……。
まるで俺が、穂村さんと二人きりになることから逃げているみたいじゃないか。
「……行きましょう」
自分に言い聞かせるように呟いて、俺もその背中を追う。
バックヤードを抜けると見慣れた扉が近づいてくる。
一週間前よりも、その扉だけが妙にはっきりと目に入った。
穂村さんが先に中へ入る。
俺も続く。
狭い。
当然だ。
部屋の広さなんて一週間前から変わっていない。
それでも、穂村さんが中に立っているだけで、記憶の中よりずっと狭く感じた。
「颯真くん?」
「……なんですか」
「お話するんじゃないのぉ?」
「しますよ」
俺は答える。
大丈夫だ。
今日は仕事の話をしに来た。
俺が穂村さんを指導するために、自分でここへ連れてきたんだ。
だから、今度こそ何もおかしなことにはならない。
そう自分に言い聞かせながら──。
俺は自分の手で、ロッカー室の扉を閉めた。
「──ですから、穂村さん」
口を開く。
ここへ来る前に決めた通り声を低く保ち、真剣さを伝える。
逃げない。
今日は俺が教える側なんだ……!
「優先順位の話、また最初からしますよ」
「うん……」
穂村さんが小さく頷く。
ドアを閉めたこの部屋は、やはり静かだった。
天井の蛍光灯の微かな駆動音。
そして、自分の呼吸音だけがやけに大きく聞こえる。
「まず、冷蔵品を優先する理由は──」
言いながら、俺は穂村さんを見上げた。
真正面から。
あの日もそうだった。
最初はちゃんと話せていた。
「……」
穂村さんは何も言わない。
ただ俺の言葉を待っている。
薄暗い照明の下で、彼女の大きな輪郭がそびえている。
一歩も動いていない。
なのに、なぜだか……。
圧が……ある……。
「……冷蔵品は温度管理が厳密だから、台車の上に置いたまま放置すると品質に──」
そこまで言ったときだった。
穂村さんが、動いた。
「あぁ〜……♡」
小さく漏らした彼女が一歩だけ、こちらへ踏み出してきたのだ。
一歩。
たった一歩。
距離が縮まる。
「……っ!?」
反射的に身体が強張った。
足が動かない。
後退したいのに、アキレス腱が仕事をボイコットしてしまったみたいに動かない。
匂いが漂ってくる。
一週間前と同じ、甘く生温かい、濃い、ヒトの匂い。
「穂村さん……近い、です」
「ん〜?」
首を傾げる穂村さん。
「だってぇ、颯真くんのお話、ちゃんと聞きたいからぁ」
「聞くならそこからで、じゅ、十分じゃない、ですか……?」
声が震えた。
いかん。
弱い。
「遠いとねぇ、颯真くんの声が入ってこないのぉ」
「普通に聞こえてる、でしょ」
「えー? 聞きづらいよぉ〜」
穂村さんが、にっこりと笑った。
あの日と同じ顔。
垂れ気味の穏やかな目が、細められる。
「颯真くん、今ちょっと声が震えてるもん♡」
「っ……!」
図星。
拍子に更に一歩下がろうとした。
だが足が動かない。
本能が竦む。
蛇に睨まれた蛙。
「優先順位、だよねぇ? 教えてくれるんでしょぉ、颯真くん♡」
しかし、穂村さんはもう一歩踏み込んでくる。
服の生地が擦れる音。
重たい足音。
そして、圧倒的な存在感を携えて。
「──ひっ」
息が詰まった。
目の前に穂村さんの巨大な胸がある。
LLサイズのポロシャツのボタンが今にも弾け飛びそうに張り詰め、その隙間から淡い肌が覗いている。
見るな。
視線を逸らす。
逸らした先には、彼女の首。
汗ばんだ鎖骨。
下に向ければ厚みのある太もも。
どこを見ても穂村さんの身体。
視界が彼女の女体で埋め尽くされる。
「あぁ〜♡ やっぱりぃ♡」
突如、頭上から甘い声が降ってきた。
「……は?」
「颯真くん、やっぱり避けてたんだぁ〜♡」
穂村さんが、嬉しそうに目を細めた。
まるで、ようやく正解を見つけた子供のように。
「ち、違……」
「違わないよぉ。だって今も、私が近づいただけでこうなっちゃったもん♡」
視線が俺の全身を舐めるように滑る。
「顔、真っ赤だし、目泳いでるし、息も浅いしぃ♡」
「……」
「ねぇ、颯真くん♡」
穂村さんの手が、俺の頬に触れた。
大きく肉厚の掌。
あたたかい。
あの時と同じ。
「颯真くんがずっと私のこと避けてたのはねぇ……」
「さ、避けてなんか……っ」
俺の言葉なんてまるで聞いてないみたいに、穂村さんの指先が頬を伝って顎へ。
そして上を向かされる。
「このこと、気にしてたからだよねぇ〜♡?」
「……ッ」
否定できなかった。
声が出ない。
穂村さんの顔が、目の前にある。
あの日と同じ距離。
いや、それよりも近い。
吐息が触れ合うほどの距離でじっと見下ろされる。
足は縫い付けられたみたいに動かない。
「ごめんねぇ、あの日は驚かせちゃってぇ……♡」
穂村さんの唇が動く。
いつもより饒舌に。
「でもねぇ、私、分かっちゃったのぉ♡」
「な、なにを……」
「颯真くんがねぇ、私の近くにいると、いっぱいいっぱいになっちゃうこと♡」
心臓が跳ねた。
見透かされている。
この女は、俺の弱さを知っている。
「だからね、颯真くん♡」
穂村さんの唇が、俺の唇に重なった。
──ちゅっ♡
柔らかい。
あたたかい。
ねっとりとした感触。
一週間前の記憶が、一瞬で蘇る。
その時と同じ、穂村さんはやっぱり今日も躊躇はなかった。
「ん……ッ!」
驚きで目を見開く俺の口唇を、穂村さんのそれが押し開く。
拒絶しようと固く結んでいたはずの唇が、彼女の舌の熱さと湿り気で、たやすく開門させられる。
こんな分厚くて長い舌、止められるわけがないじゃないか──ッ!
──ちゅぅ……♡ ちゅぱっ♡
「んふぅ〜……♡」
満足そうに鼻を鳴らす穂村さん。
頭が痺れる。
酸素が足りない。
甘い匂いが肺の奥まで侵入して、思考を白濁させていく。
「んっ……♡ は……♡ えへへぇ〜……♡」
──ぢゅぱぁ……♡
唇が離れる。
銀色の糸が引く。
それを見つめる穂村さんの目は、とろりと蕩けていて、底知れない色があった。
「ぁ……」
声が出ない。
言わなきゃいけないのに。
説教しなきゃいけないのに。
俺はここに、穂村さんに優先順位を教えるために来たんだ。
「……優先、順位……」
しぼり出すように呟く。
「ん〜? なぁに♡」
穂村さんが笑う。
楽しそうに。
仕事で叱られている時とは全然違う。
「颯真くん、お仕事の話、したがってたんでしょぉ?♡」
「……ですから」
「だけどさぁ〜」
穂村さんの両手が今度は俺の肩を掴んだ。
大きな手のひらで、がっしりと。
「この前みたいにこうしたらぁ〜……♡」
──どすんっ♡
背中にロッカーの冷たい扉を叩きつけられる。
同時に、前面から穂村さんの豊満な巨体が押し寄せてきた。
「ぐっ……!!」
肺の中の空気が一瞬で押し出された。
重く、柔らかく、そして熱い。
ロッカーと穂村さんの身体に挟まれ、俺は身動き一つ取れなくなった。
これもあの時と同じ。
「あはは♡ 颯真くん、ちっちゃいねぇ〜♡」
耳元で囁かれる。
吐息が耳の産毛を撫で、脳髄まで痺れが到達する。
鳥肌が止まらない。
「こうしてるとねぇ、颯真くんはほんと小さくて、私が守ってあげなきゃって思うのぉ♡」
「守る……って……」
「だってぇ、震えてるし♡ こんなに汗かいてるしぃ〜?♡」
大きな手が俺の髪を梳くように撫でる。
優しく、でも逃さない手つき。
「あの日もねぇ、こうしてたら颯真くん、私の匂いで……♡」
──すんっ♡
鼻先を首筋に寄せられ、深く匂いを吸い込まれる。
「ひっ……♡」
「んふふ♡ 今度はいっぱい匂いつけちゃおうねぇ♡」
押し付けられた体。
目の前にはクスクスと笑う穂村さんの女体。
そんな彼女が、左腕をゆっくりと上げた。
左肘から上が持ち上がる。
そしてポロシャツの隙間から顕になる腋の窪み。
「……っ!?」
見てしまった。
決して見たかったわけじゃない。
だけど目に入ってしまった。
濃い陰影を孕むそこは蒸れて汗ばみ、彼女の甘い体臭の根源のような湿度を湛えているようだった。
それに、毛も何も生えておらずスベスベしていて──。
「あ……」
短い吐息が漏れる。
「ん〜?♡」
穂村さんが俺の反応を見逃してくれるはずはない。
もちろん俺はこんな至近距離で女の腋を見せつけられる機会なんてもちろん人生で一回たりともないわけで。
「ふぅ〜ん♡ 颯真くん、もしかしてぇ、腋好きなのぉ?♡」
「ちっ、違っ……」
慌てて否定するも遅い。
真っ赤になった顔が全てを物語ってしまっている。
「そんなに気になるぅ?♡ 私の腋〜?♡」
揶揄うような口調。
穂村さんの瞳が愉快そうに細められる。
「……ぅ……ぁ」
「私こんなに身体おおきくてぇ、汗っかきだからぁ〜、人一倍体臭も濃いみたいでぇ〜……♡」
穂村さんの言葉を耳にしながら、ポロシャツの奥に見える窪みを凝視してしまう。
いけないことだと分かっていても、『むわぁ……♡』と生温かい湿気が頬を撫でるだけで心拍数が上がっていく。
「この中は暑くてぇ〜……い〜っぱい汗かいてるんだよぉ♡」
わざとらしく、穂村さんは俺の目線に向けて腕を上げたままにしてみせていた。
谷間から湯気が上がる幻覚すら見えた。
目を逸らそうとしても彼女の香りがそれを許してくれない。
甘酸っぱくて芳醇な芳香。
胸に顔を埋められた時とはまた違う、もっと原始的で生物的な、フェロモンの暴力。
「嗅がせてあげる〜……♡」
「い……いらな……」
拒絶の言葉は虚空へと消え去った。
穂村さんが左手を更に高く掲げて俺の頭を腋に迎え入れるように動く。
「よいしょ〜♡」
抵抗する間もないまま頭部が彼女の腕に囚われた。
顔が吸い込まれるように窪みへダイブする。
──ぎゅむぅ……♡
「〜〜〜っ♡♡♡」
叫び声も出なかった。
文字通り顔を挟み込まれた。
おっぱいとは異なる太い腕肉が左右から頬を挟み潰し、前方には蒸れた腋の丘が鼻孔を塞ぐように押し付けられていた。
「んっふぅ〜……♡ ほらぁ〜全部食べちゃったぁ♡」
「んぶっ♡ あっ……♡」
あまりの密閉感に視界が完全に闇に閉ざされる。
外界から遮断された鼻腔には彼女の猛烈なフェロモンだけが注ぎ込まれてきた。
ツンとするのに甘い。
熟れきった果実を搾り上げ、さらに発酵させたような匂いが直に叩き込まれ、脳細胞が悲鳴をあげる。
「やぁ〜ん♡ くすぐったぁ〜い……♡ 颯真くんお口ぱくぱくしててかわいぃ〜♡ 私の匂い好きなんだぁ♡」
くすくすと笑う穂村さんの声が頭蓋に響く。
腋の圧迫から逃れようと暴れるも、頭をロックした腕はピクリとも動かず、何の抵抗も出来ない状態で濃厚な腋フェロモンに脳みそをレイプされていく。
「ん"っ……♡ あ"……♡」
目の奥がチカチカする。
白濁する意識。
逃げられない。
このままじゃ、この女の匂いだけで狂わされてしまう。
鼻を通じて身体の芯に毒のような快楽が染み込んでいく感覚。
酸素不足で思考が断片的になる。
それが逆に、より一層匂いを敏感にさせる。
鼻の奥の粘膜がぴりぴりと発火するようだ。
「私ねぇ……颯真くんにい〜っぱい匂いつけてあげるねぇ……♡ ずぅ〜っと私の匂いしてるといいなぁ〜♡」
「んん"ッ♡ んぅ……♡ んむぅ……♡」
抵抗する気力が削がれていく。
身体が痺れ、腕から力が抜け、穂村さんの腋に委ねられるように重力に従ってしまう。
無理やり与えられる匂い。
それにただ翻弄されるしかない俺。
そんな状態で──。
──グイっっ♡♡♡
俺の脚の間に割り込んでくる太い柱。
いや柱じゃない。
穂村さんの太ももだ。
肉厚の脚が俺の股間を下から力任せにすくい上げる。
「──ッ♡♡♡」
声にならない悲鳴。
硬くなっていた屹立が、服越しとはいえ穂村さんの太ももに強く押し付けられる形となった。
そのまま太ももの柔らかい肉が俺の屹立をぐにゅりと包み込む。
「んっふふ……♡ 颯真くん、ここも元気だねぇ〜♡」
「……ッ♡」
言葉が出ない。
否、息すらロックされた腋に奪われている。
現状を理解する脳みそはもう、完全に酸欠とフェロモンで機能停止。
今の俺に出来ることはただ一つ。
強烈な女の匂いと脚の圧迫に流されることだ。
「私の匂いでぇ〜、こんなにも硬くしちゃってるのぉ〜?♡ 颯真くん、ほんとすけべだねぇ♡」
口調はさっきまでの揶揄うようなものから、もっとねっとりとした低い声に変わっていた。
甘く、粘ついた声。
「んぅ……♡ ほ、ほむら……さ……♡ や、やめ……♡」
喉の奥からしぼり出した声も、腋の肉に吸い込まれて消える。
「ん〜? 何か言ったぁ〜?♡」
耳元に吐息。
分厚い舌が耳の縁をなぞる。
「あ……♡ んっ……♡」
──れろっ……♡ れろっ……♡
「あ"ッ……♡ んんッ♡」
──にゅるるるぅ……♡ ぬぽっ♡ ぬぽっ♡ ぬぽっ♡
耳の穴に舌先が差し込まれ、浅い部分で抜き差しされる。
意外に硬い舌先が、耳穴に生えた産毛をすり潰し、脳に直接響く卑猥な摩擦音を撒き散らす。
背筋を強烈な快感が駆け上がった。
「んふふ……♡ ここ気持ちいいのぉ〜?♡」
「……ッ♡ あッ♡ んッ♡」
逃げ場がない。
声は腋の肉に吸い取られ、耳はべろんと張り付く舌の感触に支配される。
股間は太ももに持ち上げられて、もはや身動きは取れず。
俺は四方八方から穂村さんに犯されていた。
完全に手も足も出ない。
身長差も体格差もすべてが俺の不利として押し付けられる。
「ねぇ颯真くん……♡ 私の匂いいっぱい嗅いでぇ〜♡ 私の匂いで気持ちよくなってねぇ……♡」
その言葉と共に穂村さんの太ももが俺の股間を更に強く押し上げた。
「っっ♡♡♡」
視界が明滅する。
屹立が太ももの肉に食い込む。
ズボンの布越しであっても生々しい肉の感触が直接伝わってくる。
下着の中の屹立は我慢汁を滴らせ、先走りの濡れた感触が下着の中で不快なほど粘ついている。
「ほらほらぁ〜♡ 颯真くんのココもねぇ〜、私の腋を嗅いで元気になっちゃってるよぉ〜♡」
「やめ……っ♡ うそっ……♡」
「うそじゃないもん♡ ほらぁ〜♡」
──ぐにゅっ♡
太ももが俺の屹立を下から押し上げるように蠢く。
肉の波に揉まれ、擦れ合う。
下着の中でカリが擦れるたびに目の前で火花が散る。
「あ♡ あ"ッ♡ あ"ッ♡」
口から漏れるのは喘ぎ声だけ。
説教どころではない。
俺は今この女に太ももで搾り取られようとしているのだ。
「んふふ……♡ 颯真くん〜? 腋の匂いとぉ〜、太ももでぇ〜、イっちゃいそうなのぉ〜?♡」
──グィィィ……♡♡♡
更に太ももがリフトし、爪先立ちになっていた足が、床から離れる。
全体重が股間にかかった。
穂村さんの太ももの上に跨らされたような体勢。
脚を閉じようとしても閉じられない。
穂村さんのぶっとい脚は俺の太ももなんかより遥かに太く、どれだけもがこうが硬く太い骨とそれらを支える筋肉と柔らかい女肉を前にして豆鉄砲もいいところ。
「ひッ♡ あッ♡ あ"ッ♡ ん"ッ♡」
重力と穂村さんの脚の力に圧迫され、屹立が限界まで擦られる。
穂村さんの腋に押し付けられた顔は、最早呼吸もままならない。
酸素を求めて鼻で吸い込むたびに、猛烈な匂いが脳髄を直撃する。
「ふぅ〜♡ いっぱい嗅いでぇ〜♡ 颯真くんの頭の中、い〜っぱい私の匂いで満たしちゃおうねぇ〜♡ んれぇ〜……♡」
──ぢゅぽっ♡ ぢゅぽっ♡ ぢゅぽっ♡
耳元の粘膜がねっとりと蠢く。
耳の穴に入り込んでは抜き差しを繰り返す舌の摩擦音。
更には前後左右に揺れる太もも肉がビクビクと震える陰茎を嫐り尽くす。
「ん"ッ♡ ん"ッ♡ ん"ーーッッ♡♡♡」
限界が近い。
本能が警告する。
これ以上刺激を加えられたら、もう耐えられない。
頂に達してしまう。
「あ"ッ♡ あ"ッ♡ だめ……っ♡ こわれ……ちゃ……♡」
「こわれないよぉ♡ 私が支えてあげてるから大丈夫だよぉ♡」
「そうじゃ……なく……っ♡」
──ゆさっ♡ ゆさっ♡ ゆさっ♡
「んあッ♡ あッ♡ あ"ッ♡」
「颯真くんの全部〜……私が決めてあげるからねぇ〜♡」
「……ッ♡♡♡」
「仕事もねぇ〜♡ イクのもねぇ〜♡」
耳元で囁かれる甘い言葉。
その全てが命令として脳裏に刻まれる。
仕事は一向に覚えない癖に、どうすれば俺が喜ぶか、耐えられなくなるかを、彼女は頭のどこかで完璧に理解している。
その落差に抗えない。
「あ"……♡ んんッ♡ ん"ーッッ♡」
耐えられない。
圧倒的な体格差、濃厚な腋の匂い、耳を犯す長く肉厚な舌、そして全体重を預ける太ももの揺さぶり。
全ての刺激が一度に全身を貫いていく。
「ひゃっ♡ あ"ッ♡ あ"ッ♡」
息が浅くなる。
視界がしらやむ。
そして──。
「颯真くん……♡」
耳元で囁く、甘く低い声。
「イッていいよぉ〜♡」
「ッ♡♡♡」
許可の一言。
その一言が合図だった。
全身の血液が下半身に向けて雪崩を打つ。
穂村さんの太ももの上で身体がのけぞり、背中のロッカーがガタガタと揺れる。
止められるものは何もない。
「イッ……♡ イク……♡ イクイクイク……ッッ♡♡♡」
「んふふ……♡ いいよぉ〜……♡ いっぱい出してねぇ〜♡」
──びゅるるるっ♡♡ びゅくっ♡ びゅくびゅくっ♡♡
「あ"あ"ーッッ♡♡♡」
口から迸るのは最早言葉ではない。
本能の赴くままの絶叫だった。
耳元で舌をねじ込まれ、腋の匂いを吸い尽くし、太ももで全体重を股間に預けたまま揺さぶられて俺は、濃すぎる射精を迎えた。
目の前が真っ白に弾け、身体の奥底から全てが吸い出される。
搾り取られる。
ロッカーに背中を打ち付け、震える脚が空中を蹴る。
全身の筋肉が痙攣し続け、何度も何度も太ももの肉の上で、自らの下着に向かって精を注ぎ続けた。
「あ♡ あ"♡ あ"ーッッ♡♡♡」
白濁した思考の中で俺は感じる。
穂村さんの太ももが未だ俺を支えて離さないことを。
あたたかく、柔らかく、そして太い。
全てを許容する肉の檻。
そこへ囚われながら、最後の一滴まで吐き出さされる。
俺は、また負けたのだ。
──びゅっ♡ びゅくっ♡ どぷっ♡ どぷっ♡
脈打つたびに溢れる精液。
下着の中が熱い。
粘つく液体が肌を伝い、自らの太ももの内側へ垂れていく。
「はぁ……♡ はぁ……♡ はぁ……♡」
荒い呼吸を繰り返す俺の耳元で、穂村さんが満足げに吐息を漏らした。
「んふふ……♡ 我慢できずにまたいっぱい出ちゃったねぇ〜♡ 颯真くん♡」
「……っ♡」
返す言葉がない。
事実だからだ。
またしても穂村さんの誘惑に抗えずに射精したのだ。
それも、これでもかと言うほど濃く大量に。
「私の匂いで……♡ 私の太ももで……♡ イっちゃったんだねぇ〜♡」
「あ……♡」
「えらいえらい♡ ちゃんと私のいうこと聞けたねぇ〜♡」
「……」
頭を撫でられる。
まるで子供を褒めるように。
情けない。
でも抗えない。
身体はもう穂村さんの匂いと快楽に侵食されきっていた。
俺はもう逃げられない。
この女の支配下から。
「ねぇ颯真くん……♡」
穂村さんの太ももがゆっくりと下ろされる。
両足が床につく。
膝が笑って立てない。
そんな俺を穂村さんの腕が支えた。
「これからはねぇ〜♡ 私のこと優先してねぇ〜♡」
「……っ♡」
「お仕事はちゃんと颯真くんの言うこと聞くねぇ〜?♡」
一瞬、希望が芽生えた。
じゃあ、今まで通りに──。
「でもぉ……二人きりの時は、私の言うこと聞いてねぇ♡」
分厚い手のひらが、俺の股間を軽く握る。
──ぎゅむっ♡
「っ♡」
「だーめ♡ ココは私のものなんだからぁ♡ 颯真くんが勝手にしちゃだ〜め♡」
「……」
「約束してねぇ〜♡ 颯真くん♡」
潤んだ瞳で見下ろされ、囁かれる。
逃げられない。
逆らえない。
頭が空っぽの俺にはもう、頷くことしか出来なかった。
「……はい」
俺のその言葉に、穂村さんはいつものように微笑んだ。
「んふふ……♡ やくそく〜♡」
そうして彼女は、何事もなかったかのようにロッカー室のドアを開け、のそのそと出ていった。
静寂が戻る。
残されたのは、粘つく下着の感触と濃密な腋の匂いと脳裏にこびりついた快楽の記憶。
何度目の溜息だろうか。
呆然と立ち尽くしながら、大きく息を吐いた。
まただ。
また、負けた。
仕事の説教をするために呼んだのに、反対に俺が手篭めにされてしまった。
仕事のできない女に。
よりにもよって自分の指導している相手に──。
悔しい。
だけど、身体の芯はまだ疼いていた。
俺はゆっくりとしゃがみ込む。
下着の中でぐちゅりと粘ついた感触が肌を撫でる。
不快だった。
「優先順位……か」
今度こそちゃんと教えるつもりだった。
なのに全く逆の結果。
仕事ができることと、この人に抗えることはまるで別の話だった。
こんなのって──。
早く着替えて帰らなければ。
明日もバイトがある。
いつも通りに……できるだろうか……。
二度も同じ場所で、同じ女に何もできなくされた。
それなのに俺は今、穂村さんのことが前よりずっと気になって──。
………
……
…
##P3 やっぱり仕事ができない穂村さん@穂村さんの靴の忘れ物、靴の匂いを嗅いで自慰行為
それから数日が経った。
あの日以来、俺と穂村さんの間に何か決定的な変化があったわけではない。
「颯真く〜ん。これ先に出しちゃっていいんだっけぇ?」
「駄目です。そっちより冷蔵品が先です」
「あぁ〜……そっかぁ。そうだったねぇ」
「昨日も言いましたよね?」
「言ってたねぇ〜」
「…………」
少なくとも仕事中は何も変わっていない。
相変わらず穂村さんは仕事が遅いし、間違えるし、俺が指摘すると少し考えてから納得する。
頭の回転が遅い。
あの狭いロッカー室で俺を散々翻弄した女と同一人物とは思えないほど、いつもの穂村さんだった。
ただ変わったものがあるとすれば、俺のほうだった。
「じゃあ、こっち終わったら飲料やればいいんだねぇ?」
「はい。それで──」
説明している途中、穂村さんが俺の手元を覗き込もうと、一歩近づいてくる。
「…………っ」
身体が勝手に反応する。
半歩下がってしまう。
「あれぇ?」
「……なんですか」
「ううん」
穂村さんが首を傾げる。
俺は何事もなかったように商品のほうへ視線を戻した。
近い。
いやこれくらいの距離なら、以前はなんとも思わなかったはずだ。
狭い売り場で働いていれば、人と肩が触れそうになることくらい珍しくない。
それなのに最近は穂村さんが近づいてくると、妙に意識してしまう。
大きな身体も、体温も。
そして──。
「じゃあ、行ってくるねぇ」
「……はい」
俺の横を通り過ぎて。
──むわぁ……♡
一瞬だけ、鼻の奥に残ったものに気づいて、俺は息を止めた。
「…………」
まただ。
振り返れば、穂村さんの大きな背中が売り場の向こうへ遠ざかっていく。
別に変な匂いじゃない。
仕事中なんだから汗だってかくし、柔軟剤やシャンプーの香りだって混じってる。
そんなもの、今まで何度だって嗅いでいるはずなのに──。
最近は穂村さんが近くを通ったことを、姿を見るより先に匂いで分かることがある。
「……最悪だ」
何を覚えてるんだ俺は……。
あの日のせいだ。
そう決めつけて、俺は仕事へ戻った。
………
午後八時を少し回った頃。
夕方の混雑もようやく落ち着き始めていた。
「お疲れさまでしたぁ〜」
聞き慣れた声に品出しをしていた俺は顔を上げる。
私服に着替えた穂村さんが、売り場の端からこちらへ手を振っていた。
「あ、穂村さん。今日八時まででしたっけ」
「うん〜。お先に失礼しまぁす」
「お疲れさまです」
「颯真くんも頑張ってねぇ」
──ひらひら。
大きな手が揺れる。
そのまま穂村さんは従業員用の出入口へ向かい、やがて姿が見えなくなった。
「…………」
なんとなく、その方向を見てしまう。
今日はもう会わない。
そう思った瞬間。
わずかに肩から力が抜けた。
「……何安心してんだよ」
自分で自分に呆れながら、段ボールへ手を伸ばす。
別に避けているわけじゃない。
仕事中に余計なことを考えたくないだけだ。
それだけ。
ほんとにそれだけ。
………
それから三十分ほど経った頃だった。
「相原くん、悪い」
バックヤードへ商品を取りに戻ったところで、社員に呼び止められる。
「はい?」
「明日の特売で使う値札ホルダー、控室の棚に残ってなかったっけ?」
「ああ……予備ですか?」
「そうそう。あったら持ってきてくれる?」
「分かりました」
バックヤードの奥へ向かう。
この時間になると、従業員の数も少なくなっている。
控室の扉の前。
「…………」
一瞬だけ足が止まった。
あの日のことを思い出したわけじゃない。
……いや、忘れるわけないじゃないか。
自分に自分が嘘をついて、馬鹿馬鹿しくなった。
「……だから誰もいないって」
穂村さんだって三十分も前に帰ってる。
俺は扉を開けた。
蛍光灯を点けると仄暗く白い光が狭い室内を照らした。
当然、誰もいない。
「……そりゃそうだ」
妙に安心している自分が腹立たしい。
備品棚の前へ向かう。
確か値札ホルダーは下のほうだったはずだ。
しゃがみ込み、段ボールを一つずつ確認する。
「値札……テープ……古いPOP……」
乱雑に積まれた備品達。
違う。
これも違う。
「どこやったんだよ……」
棚の奥を覗き込む。
手前に積まれた箱が邪魔だった。
「よいしょ……」
一箱抱えて横へずらし、更にその後ろの箱も引っ張り出したところで、目的のものを見つけた。
「あったあった」
中身を軽く確認して箱を戻す。
の仕方なく周りの段ボールも元の場所へ戻していく。
最後に邪魔だった箱を持ち上げたところで。
「──」
ロッカー付近の床に、白いかたまりが視界に入った。
これ。
いや、その存在自体は控室に入った時から気づいてはいたけども。
ロッカーの近くに、きちんと揃えて置かれた白い靴。
うちの支給品の仕事靴。
「誰のだよ……」
こんなところに置いたら邪魔だろ。
そう思ったところで、違和感を覚えた。
デカい。
自分のよりも、一回りも二回りも。
同じ支給品だから形は見慣れている。
なのに、その一足だけ妙に存在感があった。
「…………」
まさか。
しゃがんで少し身体を傾ける。
踵の内側に、小さなシールが貼られていた。
名前を書くためのものだ。
長く使われているらしく、端は少し剥がれ、油性ペンの文字も擦れている。
それでも二文字だけは、はっきり読めた。
『穂村』
「…………」
視線が止まる。
それはさっきまで……ほんの三十分ほど前まで穂村さんが履いていた仕事靴だった。
「なんで出しっぱなしなんだよ……」
穂村さんに限らず、従業員はみんな自分のロッカーのの中へ私物を置いたり仕事靴を収納したりしている。
それなのに、穂村さんのそれはロッカーの外へと放置されていた。
あの人らしい。
そうだ。
あの人らしいミスだ。
ロッカーの中へ片付けるのを忘れたか、取ろうとして出したままか……とにかくあの人らしい。
『……あぁ〜、忘れてたぁ〜』
そんな間の抜けた声が聞こえるようだ。
「…………」
とにかくだ、ロッカー室に残された穂村さんの仕事靴。
俺はそれをどうするべきか。
持って帰るわけにもいかない。
ましてや、ここへ置き去りなんてのも見つけた側として気持ちが悪い。
どうせあいつは気づいてすらいないんだ。
社員の誰かに片付けられて困るかもしれない。
だから……そう。
俺は……。
俺は、穂村さんの仕事靴を穂村さんのロッカーへ戻しておくことにした。
「……」
自分のロッカーの隣。
穂村さんのロッカーの前へ立つ。
片方の靴へ手を伸ばした。
靴の外はひんやりしている。
「……」
扉へ手をかける。
──ガタガタ。
施錠されている。
「いや、ここはちゃんと鍵してんのかよ」
普段の抜けた感じからどうせここも施錠してないと見込んでた手前、口からツッコミが漏れていた。
いやはや、仕事では抜けてるくせに、こういうところだけはちゃんとしているなんて……。
残念だ。
「……」
ロッカーは開かない。
社員に預けるか。
いや、それも面倒だ。
つーか、片付けてなくて怒られるのは穂村さんだし、放っておけばいい。
そう思い、靴を床へ置き立ち上がろうとした。
したのだが──。
その瞬間、記憶がフラッシュバックする。
あの日のこと。
ロッカーに押し付けられた身体。
逃げられない密室。
濃密な彼女の匂い。
柔らかく重い巨大な肉体。
耳元で囁かれた声──。
「……っ」
やめろ。
仕事中だ。
頭を振って、しゃがんだ体勢のまま手に取った靴を見下ろす。
酷い。
どうしてこんな所で思い出す。
──むわっ♡
ふいに突如として嗅覚を刺激するものがあった。
それと同時に、鼻の奥に残っていた記憶の引き金が引かれる。
穂村さんの匂い。
この前、ロッカー室で密着された時の匂い。
汗と体温と甘い香り。
全身に染み付いた彼女の匂いと、刻み込まれた快楽。
その記憶が蘇る。
「……」
──匂い。
頭の中に一つの思いが浮かぶ。
直前まで、俺の脳内で働いていた理性が急に熱を発し始めた。
だめだ。
いけない。
分かっている。
でも──。
「……」
それ以上俺の脚は持ち上がらず、時間は僅かに静止したかのように感じる。
俺は──。
俺は──。
周りを見る。
誰もいない。
ドアも閉まっている。
静寂。
自分の呼吸音だけが聞こえる。
「……」
理性が弾ける音がした。
魔が差した。
そうとしか言えない。
俺は手に取った靴の入り口をじっと見つめた。
中敷きは色が変わり、汚れている。
長年履き続けているのが一目で分かる。
大学時代からこの店で働いているらしい穂村さんが、自慢げに話していた。
制服だけでなく、靴も一度も新調していないと。
物を大事にしてるんだと。
そんな仕事靴。
一日何時間も履いて、冬も夏も踏ん張って、汗を吸って。
人一倍の体格に相応して、発汗量も人並み以上。
だから──。
それを分かっていて。
自分は何をしようとしているのか。
「……」
距離を離したまま。
直には流石にまずいだろ、と。
俺は一度だけ大きく呼吸をした。
そして──。
──すんっ♡
「ぁ……」
かすかに……にお……ッッ♡
──すんっ♡
自分の鼻腔が自覚するのと同時に頭の芯がかっと熱くなる。
鼻の粘膜を通り抜けてきた空気は生温かく湿っていた。
中敷きに染みこんだ彼女の汗や皮脂、それらと共に勤務で培われた匂い。
きつい臭い。
例えようのない酸っぱい臭い。
決していい匂いじゃないのに……。
「ぁ……♡ くさ……♡」
それなのに、目が離せない。
むしろ身体の中心に、もっと嗅ぎたいという欲望が沸き起こる。
──すんっ♡ すんっ♡ すんっ♡
何度も、何度も。
遠いところで浅い呼吸を繰り返す。
背徳感が高まり、更に五感が鋭くなる。
体中の血液が沸騰するように熱い。
身体は既に反応していた。
半勃ちになった自分のそれを意識すれば羞恥と興奮が同時に襲う。
心臓の音がうるさい。
もしこれをダイレクトに嗅いだら俺はどうなる?
更なる魔が差しそうで怖い。
だが、興奮と好奇心が恐怖を凌駕する。
──すんっ……♡
ひと嗅ぎごとに頭の奥がじんと熱くなる。
鼻腔の奥に残る刺激が脳幹を痺れさせ、理性をちりちりと炙りたてる。
混濁する思考。
頭の中に蘇るのはあの日の腋の匂い。
強烈で濃密な、本能を直接握り潰して刺激するようなフェロモン。
脳裏にこびりついて離れないあの匂い。
この靴の臭いも、それと同じ類だ。
腹の底から湧き上がるような、生理的な欲求。
雌の匂い。
「穂村さん……♡」
名前を呼ぶ。
甘い声が出た。
だめだ。
俺は何をしているんだ。
早く靴を置いて出なきゃいけないのに。
わかっている。
なのに──。
「……」
動けない。
身体の中を巡る臭いが、行動を煽り立て嗅覚が暴走する。
自ら進んで匂いの供給源へ顔を近づけてしまう。
黒ずんだ中敷き。
まるで小さなブラックホールのように、履き口へと鼻が吸い込まれていく。
──すんすん……♡
近づく。
近づいていく。
距離はもう指何本分かしかない。
湧き出る湿気は更に濃く、鼻腔の奥を痺れさせ、脳幹を刺激する。
──すんっ……♡
履き口が近づくにつれ、吸い込む空気の湿度が変わる。
濃い。
圧縮されたように濃密な、臭い。
だけどどんどん近づけてしまう。
それこそ、触れてしまいそうな距離まで。
──すんすんっ……♡
「ん"ッッッ♡♡♡」
靴の中は地獄だ。
汗と皮脂とが発酵し、発生した菌による臭いの巣窟。
それらを何度も踏みつけにし染み込ませた足。
今はそこにいないはずの穂村さんの残留物。
靴を履いていた穂村さんの足を、思わず妄想してしまう。
巨足。
がっしりとした骨格を支えるぶ厚い足裏。
人一倍の体重で踏みしめられていた中敷き。
それらが醸し出す極上の激臭。
嗅げば嗅ぐほど思考が白濁していく。
──すーっ♡♡♡ すーっ♡♡♡ すーっ♡♡♡
「……ッッッ♡♡♡」
いつしか臭いを吸い込むことに夢中になっていた。
変態的な行為を止められない自らの浅ましさに泣きたくなってくるが、それでも止められない。
ストレスや疲労。
日頃のイライラ。
それらを穂村さんの濃厚な臭気がぶっ飛ばしてくれる気がした。
──ぐちゅっ……♡
無意識にズボンの上から屹立を握り込んでいた。
擦ると先走りの粘液が布越しに滲み、下着の中をどんどん汚していく。
「あ……っ♡ 俺……なにして……っ♡」
──ずっ……♡ ずりっ……♡
手が止まらない。
止められない、
むしろ靴の匂いを嗅ぎながら自慰をすれば更に深く堕ちていけるような気がした。
──すーっ……♡ すーっ……♡
「んっ……♡♡♡ あ"ッッ♡♡♡」
気持ちがいい。
脳天から突き抜けるほどに気持ちがいい。
誰もいない控室で、同僚の仕事靴に顔を埋めているというのに。
自らの卑屈な興奮でこの密室は甘く満たされていた。
──すんっ♡ すんっ♡ すんっ♡
あの日の、あの腋の──。
匂い……♡
甘い甘い、毒のように……。
──ずりっ……♡ ずりっ……♡ ずりっ……♡
擦る手が速くなる。
鼻の奥にこびりついた匂いが消えない。
脳裏に浮かぶのはあの日の穂村さんの顔。
楽しそうに俺を弄る女の顔。
細められた目。
とろりとした瞳。
この匂いの持ち主の顔。
──すんすんっ……♡
「いっ……♡ イキそう……♡」
靴の中へ深く吸い込む。
匂いは更に濃くなる。
頭がおかしくなりそうだ。
欲求が高まっていく。
──すんっ♡♡♡
「あっ♡ イクっ♡ イクイクイクッッ♡♡♡」
そんな理性のブレーキが焼き切れる寸前──。
──ガチャッ。
「…………ッッ!?!?」
音がした。
ドアが開く音。
だれか入ってきた?
こんな時間に……!?
直感が警報を鳴らす。
見られてはいけない。
とんでもない現場だ。
スーパーの従業員用控室で同僚の仕事靴の匂いを嗅ぎながら自慰をしているなんて、誰にも見られちゃいけない。
だが、反応が遅れた。
嗅覚と思考が連動しない。
身体も動かず。
聴覚だけが背後の扉の方へ──。
「忘れ物しちゃったぁ〜……って、あれ〜? 颯真くんじゃ〜ん……」
声。
聞き覚えのある声。
ゆっくりと間延びした、甘くとろけたような、声。
「あ、それ私の靴〜……拾ってくれたんだぁ〜……?」
背筋が凍った。
よりにもよって穂村さん……。
忘れ物を取りに戻ってきたのか。
靴を置いて出ようとした自分と鉢合わせ。
しかも……今の俺は……!
「え〜? 颯真くん……それ〜……」
背後から声だけが聞こえる。
電灯の影と彼女の身体が醸し出す圧のみが、穂村さんと俺との位置関係を教えてくれる。
振り向けない。
振り向けるはずがない。
どう言い訳しようか頭をフル回転させたところで、碌な答えも出てこない。
「あ……あ……あの……」
言葉が出ない。
出口が見えない。
視線だけは感じる。
背後からひしひしと。
俺の手に取った靴と、俺の状況を交互に見ている気配。
汗が滲む。
だが振り向くことはできない。
振り返れば見られてしまう。
何を?
俺の──。
俺の──。
俺の情けない姿を、痴態を、変態的行為を──。
「……あぁ〜♡」
──のしっ……♡
一歩。
穂村さんが踏み出す音がした。
ゆっくりと近づいてくる気配。
それだけで全身の産毛が逆立つ。
距離が近い。
すぐ後ろだ。
吐息が触れる距離。
「颯真くん……♡」
頭上から降ってくる声。
耳元へ。
「私の靴……どうしてたのぉ〜……?♡」
唇が耳に触れそうなほど近い。
その湿った感触。
匂いが濃くなる。
さっき靴から嗅いでいた激臭よりもっと濃い匂いが……生の女の体臭が俺を包み込む。
「あ……♡ あの……これは……」
言い訳できない。
否定もできない。
何もできない。
どうしようもなく──。
「──嗅いでたのぉ……♡?」
「ッッッ♡♡♡」
鼓膜を震わす甘い声。
肯定とも否定ともつかない響き。
なのにどうしてだろう。
否定しなければいけないのに。
声が出ない。
体が動かない。
「へぇ〜……♡」
背後から伸びてくる。
俺なんかよりもずっと太くて長い腕。
俺の身体を抱き込むように、穂村さんの両腕が回された。
あたたかくて柔らかくて重い感触。
背中に押し付けられる。
巨大な胸の感触。
あの日の感触と同じ。
いや、あの時以上の密着感。
「颯真くんってばぁ〜♡ 私の靴の匂い……嗅いでたんだぁ〜♡」
耳元で囁かれる蕩けた声。
「私の靴……臭いでしょぉ〜♡ ずっと履き続けてるからぁ〜……い〜っぱい私の足の匂い染み付いてるんだよぉ〜♡」
「あッ……♡」
脳が痺れる。
恥ずかしい。
見つかった。
見られた。
穂村さんに……。
この仕事のできなあ女に、俺が、その女の靴の匂いを嗅いでいたところを。
「ごめんねぇ〜♡ 私の靴、臭くてぇ〜♡ 颯真くんにまで迷惑かけちゃってぇ〜♡」
「い、いや……め、迷惑じゃ……」
──すんっ♡
彼女が俺の髪に鼻先を埋めた。
嗅がれる。
俺の匂いを嗅がれてる。
逆だ。
逆の方の行為をされてるのに、息が荒くなる。
「んふふ……♡ 颯真くんの匂い……すごい汗……♡ フェロモン出ちゃってるよぉ〜♡」
「……っ♡」
──くすっ♡
「ねぇ……颯真くん……♡」
声が甘く絡まる。
「そんなに私の匂い……好きになってくれたのぉ……?♡」
「……ッ」
揺さぶられる。
脳みそを掻き回される。
「……違……っ」
「うそつき♡ じゃあなんでそんなにココ……おっきくしてるのぉ……?♡」
──ぎゅ……♡
彼女の掌が、屹立の上へ。
上から覆い被さるように触れる。
包み込まれる。
柔らかくあたたかい巨大な掌。
その感触だけで腰が砕けそうだ。
「んあッ♡」
「ふふ……♡ すごい……♡ ズボンの上からでもわかるよぉ〜♡ 颯真くんのガチガチ〜……♡」
真っ赤になる顔。
耳まで熱い。
「あ……あの……これは……」
「あはは♡ 言い訳しなくていいよぉ〜♡」
──ちゅっ♡
唇が触れた。
左の頬へ。
柔らかい唇がついばむように触れてくる。
「だってぇ〜♡ 颯真くん、私の靴の匂いで興奮しちゃったんでしょ〜♡?」
「あッ……♡ んっ……♡」
──ちゅっ♡ ちゅっ♡
頬。
目尻。
耳の後ろ。
唇が触れるたびに腰が揺れる。
屹立を握る掌がずれていき、太ももの肉に擦れる。
その感触がもどかしい。
「じゃ、そんな変態的なこと勝手にしちゃってた颯真くんには〜……♡ お説教タイムだねぇ〜……♡」
「はっ……はひっ……」
靴の匂いを嗅いで自慰をしていたという現場を押さえられた俺には、穂村さんの提案を断る権利なんてあるはずがなかった──。
………
##P4 仕事のできない穂村さんのお説教♡@穂村さんの尋問、デカ足見せつけ、ソックス足臭責め、踏みつけコキ、陥落、『足の匂いを嗅ぎたい』というおねだり強要、生足誘惑、羞恥責め、足の臭いで呼吸管理、足指コキ、顔面踏まれながら床の上でペニス踏まれる、“様”付け強要、顔踏み、足に向かって腰振ってオナニー強要、連続射精、格差植え付け、土下座後頭部踏みつけ、気まぐれビンタ+手コキ、痛みと快楽を結びつけられる
「でぇ〜、颯真くんは何してたんだっけぇ〜?♡」
穂村さんは部屋の隅にあったパイプ椅子を引き出し腰を下ろした。
彼女の大きな身体に似合わない小さな椅子。
座ると膝が高く上がる形になり、太ももの厚みが際立つ。
「靴の匂い……嗅いでた……」
床に正座し、顔を伏せたまま答える。
情けない。
あれほど説教していた俺が今は逆に説教される側。
靴の匂いを嗅いでいただけならまだしも自慰行為まで加わったのだから尚更だ。
立場が完全に逆転していた。
「そうだねぇ〜♡ 颯真くんは私の靴の匂いを嗅いでたんだねぇ〜♡」
──ぐぐぐ……♡
長い脚を組み替え、座った状態の膝から伸びる足が俺の方へ向く。
少し動いただけでパイプ椅子が軋む音がする。
まるで悲鳴をあげているようだった。
「それでぇ〜、なんでまた靴の匂いを嗅ごうとしたのぉ〜?♡」
「そ、それは……仕事靴がロッカーの外に置いてあったから、ロッカーへ戻してあげようと思って……」
「へぇ〜♡ それで?♡」
「それで……手に取ったら……ちょっと匂いがして……」
「ん〜? ちょっと匂いがして……?♡」
「それで……魔が差して……」
「魔が差してぇ〜♡」
クスッと穂村さんが小さく笑った。
その笑い声が胸に刺さる。
どこか楽しんでいるようにも聞こえた。
「颯真くんは私と違ってしっかり者の優秀なバイトくんだからぁ〜♡ 魔が差すなんてらしくないよねぇ〜……♡」
「……」
「魔が差したんでしょ〜? 颯真くん~? ねぇ、なんで魔が差したのかなぁ〜?♡」
「だって……」
言い淀む。
なぜ魔が差したか。
それは……あの日の一件が尾を引いているからに他ならない。
あの腋フェロモンの暴力とロッカーでの搾精が、脳裏にこびりついて離れないことに他ならなかった。
だが答えは……口にするわけにはいかなかった。
「……言えないのぉ〜?♡」
「……」
口を閉ざした俺の顔を、穂村さんが覗き込む。
視界の端にパイプ椅子の脚と、組まれた長い脚が映り込む。
ギシリと悲鳴をあげる椅子の上で、おにぎりの形にひしゃげた太ももの肉。
本来何のエロスも感じられないはずの量販店のストレッチパンツだが、穂村さんが着ることによって限界まで引き伸ばされた生地の向こうに、溢れんばかりの柔肉を妄想してしまう。
私服まで豊満な身体を隠しきれないのか、この女は──。
「す、すみません……」
「何が〜?」
「あ、いやその……穂村さんの靴を勝手に……嗅いだりして……」
「うん〜♡ いけないことだもんねぇ〜♡」
「はい……」
「だけど謝らないといけないのはそれだけじゃないよねぇ〜……?♡」
「……え?」
穂村さんが、にぃーと笑った。
楽しげに。
「ねぇ、颯真くん♡ 私の靴の匂い嗅いでただけかなぁ〜?♡」
「……ッ」
ギクリとして顔が強張った。
自慰のことだ。
あれは流石に……言えない……。
「い、いえ……な、何も……してません」
「ほんとに〜?♡」
「はい……」
「じゃあなんで颯真くんのズボン、ちょっと湿ってるのぉ〜?♡」
視線が俺の股間に向く。
ぬるぬるとした先走りが下着の中からズボンの表面にまで染み出していたのだ。
濃いシミ。
隠そうとして手で覆うが、すでに見られている。
「あ……それは……」
「うそつきだねぇ〜♡」
──ずし……♡
履いていた靴を脱いだ穂村さんが脚を組むのをやめ、正座した俺の太ももの上に足を置いた。
腿の上に感じる汗を吸ったソックスの湿り気。
そして、その内側に隠された、靴と同じ種類の……しかし生の匂いがふわりと漂う。
「私の靴でそんなに気になるんならぁ〜、本人に頼めばいいのにねぇ〜♡」
「あ……あの……穂村さん……」
──むにゅ……♡
突如、ソックス越しの足が、屹立に触れた。
爪先で先端を握り込み、そのまま足裏全体で緩やかに押し潰すように、圧力をかけられる。
穂村さんの足の形に沿って、硬く張り詰めた膨らみが密着する。
当然、足の裏にすっぽりと隠れてしまう。
穂村さんの巨足は足の指を折り曲げた状態でも、余裕で俺のペニスを隠してしまえるサイズなのだ。
「ひぅっ……♡」
腰が浮きそうになるのを堪える。
だめだ。
またこの女のペースに──。
「ねぇ颯真くん〜♡ 私は怒ってないよぉ〜?♡」
「は……はい……」
「だけどお説教は必要だねぇ〜♡ 颯真くんは悪い子だから〜♡」
──ずり……♡ ずり……♡
屹立を磨り潰すように、穂村さんの足の裏全体が前後に動く。
ぬるぬるになったズボンの上から、圧迫と解放を交互に繰り返す。
──ずっ……♡ ずっ……♡ ぎゅむ……♡
「んあッ……♡ んっ……♡」
「ほら〜♡ もうこんなになってるぅ〜♡」
靴の匂いで既に限界に近かった屹立が、足で触られるだけで更に硬く脈打つ。
当然手よりは細かい動きはないものの、足裏という均一に柔らかい天井で肉竿全体を擦られることで、かえって広い範囲を刺激され、更には“足なんか”で雑に扱われているという屈辱的な背徳感もある種の快感のスパイスとなってしまう。
それに加えて足の裏はほのかに温かく、汗で湿っているのが生々しく、心地よい重みが脳幹を刺激していた。
「穂村さん……や、足……っ♡」
「やだぁ〜♡ 私の靴の匂いで興奮したくせに私の足は嫌なのぉ〜?♡」
「や……そ、それは……ッ。ん"ッッ♡♡♡」
──こり……♡ こり……♡
裸足ではなくソックス越しであるものの、足の指で裏筋を捏ねる刺激が集中力を掻き乱す。
「私の靴の匂い嗅いでぇ〜♡ こんなにびくびくしちゃって〜♡ 颯真くんこのままじゃ、私の足と靴でしかオナニー出来なくなっちゃうねぇ〜♡」
──すり……♡ すり……♡
意地の悪い足の動きがどんどん速くなる。
「お……おれは……仕事……してて……っ♡ んんッ♡」
「ん〜? お仕事〜?♡ 靴の匂い嗅いで、ちんちんシコシコするのが颯真くんのお仕事なのぉ〜?♡」
「ちがっ……あ"ッ♡ あッ♡」
──ぎゅむっ……♡ ぎゅむっ……♡
屹立が踏み潰される。
痛い。
痛いはずなのに心地がいい。
硬く勃起した屹立が巨足の下で形を歪められ、陰茎の根元から先端までが足裏の肉の下で虐め抜かれる。
擦られ、潰され、握り潰され。
足の指がカリを弾く。
「ひぅっ……♡ あ"ッ♡ ん"ーッッ♡♡」
目の奥が明滅する。
靴の匂いを嗅いで膨張していた欲望が足裏のマッサージで加速していく。
呼吸が荒い。
汗が額から顎へ流れる。
股間は粘液でぐちゃぐちゃだ。
「し、仕事中にッ……♡ し、シコるわけがぁ……ッ♡」
「へぇ~~~~そうなんだぁ~~~……♡」
屹立を踏みつけている足とは反対の左足が、踏みつけていた俺の太ももの上から持ち上げられる。
そしてそれは、そのままゆっくりと、俺の顔の前に差し出された。
ソックスの表面は薄灰色に変色し、湿り気を含んだ布地が、足の形に沿って皺を寄せていた。
ところどころ毛玉が浮き、履き古されていることが見てとれる。
俺の顔から拳一つ分の距離。
「……ッ♡」
反射的に息を止めた。
鼻先に向かって漂ってくる、濃厚な匂い。
先ほど嗅いでいた靴の匂いとは質が違う。
生々しく、熱を帯びた匂い。
足裏全体から立ち昇る、ムワッとする湿気。
「んふふ……♡ どうしたのぉ~? そんなに目ぇ潤ませて……♡」
穂村さんの長い脚が揺れ、ソックス越しの足の裏が俺の鼻先をかすめる。
ソックスの感触と、足の熱と、染み付いた匂いが混ざり合う。
「あ……♡」
──くんっ♡
無意識に鼻が吸い込んでいた。
脳髄を直接握り潰されるような衝撃。
濃い。
濃すぎる。
靴の中とは違う、生の足の匂い。
一日中仕事靴の中でじっとりと蒸らされた足が染み出す湿った匂い。
「ひぁ……♡♡♡」
視界が明滅する。
遠くでパイプ椅子が軋む音が聞こえた。
「颯真くんがぁ~、お仕事ほったらかしにしてぇ~、シコってたぁ~~~って認めるなら、これ、直接嗅いでもいいよぉ?♡」
──そ、そんなことするわけがッッ♡♡♡
「お顔、ぜ~んぶ赤くなってる~。耳まで真っ赤~。息もすっごく荒いし~、お手々も震えてる~。……これで『してない』って言われてもなぁ~?♡」
「くっ……♡」
「ねぇ~颯真くん~♡ 颯真くんは頭がいいから~、今の自分が置かれてる状況が、冷静に想像できちゃうんじゃないのぉ~?♡」
「だ、だれが……ッ♡」
「だってお仕事中に、年上の女の靴の匂いを盗み食いしちゃう変態さんだもんねぇ~♡」
「か、勝手に変態にしないで……ッ♡」
「ん~? 違うのぉ~?♡」
──ぎゅ……♡
右足。
「──ッ!?」
片足全体の力で、屹立をゆっくりと押し潰される。
その瞬間、痛みと快楽の境界が溶けた圧迫感が、電撃のように背筋を貫いた。
その拍子に、身体がくの字になってしまう。
前のめりになった顔面が、拳一つ分先にあった足の裏へ──。
「ん"ん"ッッッ♡♡♡」
「あれ~? 顔が私の足にくっついちゃった~♡」
──すんっ……♡
匂い。
濃密な匂い。
鼻の奥にねっとりと張り付く。
靴の中に充満していた匂いと同じで、同時に少し違う。
ソックス越しに立ち昇る湿った熱気は、靴の中の閉鎖的な濃度のものより生々しい。
足の指の形に沿ってついた汗染み。
蒸れた布の奥に滲む皮脂の脂臭さ。
高温多湿の靴の中で一日かけて醸成された、彼女特有の女の足の匂い。
離れなきゃ。
このままでは認めてしまうことになる。
理性が必死に警告を発している。
なのに身体は──。
──すんっ……♡ すんっ……♡
深く吸い込んでいた。
足の裏の熱を含んだ空気を。
匂いの粒子ごと吸い尽くしていく。
逃げなきゃいけないのに、逃げられない。
匂いを嗅ぐことから逃げられない。
この女の匂いから逃げられない。
「んふふ……♡ 颯真くん~♡ どう~? 私の足の匂い~♡」
「くっ……♡ くさっ……♡」
「へぇ~♡ わざわざ言っちゃうんだ~♡ 臭いって~♡」
「当たり前……ッ♡ 仕事で……一日中……履いてたんだから……ッ♡」
「そうだねぇ~♡ 一日中履いてたんだから臭いのは当たり前だねぇ~♡ じゃあなんで颯真くんは~そんな臭い匂い嗅いじゃってるのかなぁ~?♡」
「~~~ッッッ♡♡♡」
「ねぇ~♡ 臭い臭いって言いながら~、鼻息荒くして~、顔を私の足にくっつけて~、匂い吸い込んでるのはなんでかなぁ~?♡」
「ち、違……ッ♡」
「うそ~♡ 私の足を嗅ぎたくて~仕方がないくせに~♡」
──すんっ♡ すんっ♡ すんっ♡
否定したくても鼻は勝手に動いてしまう。
吐息が足に当たって跳ね返る。
それにより循環した蒸れた臭気が、また鼻から吸い込まれていく。
嗅いでも、嗅いでも、布地の奥から染み出してくる足の臭い。
嗚咽するくらい臭い臭いニオイであるはずなのに、穂村さんの足の裏から漂う生々しい女の臭いを嗅いでいると脳の芯が熱くなり屹立がビクビクと脈打つ。
「あは~♡ もう言い逃れできないね~♡ 颯真くんは~、私の足の匂いにこーふんしちゃう、変態さんなんだ~♡」
「ち、ちがッ──♡」
──ぎゅぅぅぅぅっ……♡
否定しようとした言葉は、足裏からの強い圧力で押し潰された。
屹立が歪む。
潰される痛みと、広い範囲の肉にギリギリと潰される快感が同時に襲いかかる。
前のめりになった顔は、ますます足に押し付けられた。
「んぐぅ……♡♡♡」
「ねぇ~♡ 認めなさいよ~♡」
「私の足の匂いで変な気分になっちゃってるんでしょ~?♡」
「認めたら~、許してあげるから~♡」
──すりっ……♡
屹立を押し潰す足裏が、ゆっくりと前後に動き出した。
一転して優しく擦られる。
広い足裏全体で、屹立の根本から先端までがねっとりと擦り上げられる。
「──あッ♡ あ"ッ♡♡」
今までとのギャップに腰が浮きそうになる。
圧迫の痛みと同時に与えられていた快楽が、今度は純粋な快楽に塗り替えられていく。
足の裏の肉壁による摩擦。
靴の中でじっとりと蒸れて柔らかく膨れたソックス越しの足裏の皮膚。
ズボンの布地越しの摩擦であっても、その分厚く巨大な足からくる重さが性感帯を蹂躙していく。
──ずっ♡ ずっ♡ ずっ♡
「あ~あ~♡ おちんちんビクビク震えてるよ~?」
反論の余地はなかった。
俺は現に穂村さんの足の匂いに興奮し、発情してしまっている。
確固たる証拠がある以上、それを誤魔化しようがない。
既にこの女にバレてしまっているのだ。
ならば……抵抗する意味はない。
「……す……」
「え~?」
「……すぅ……き……ッ♡」
掠れて消え入りそうな声。
「私の足の匂いが好きなのは~、誰かなぁ~?♡」
「お……俺……です……♡」
「颯真くんは~、私みたいなデカい女の靴の匂いを嗅いで~変な気分になる変態さんなのでしょうかぁ~?♡」
「は……い……♡」
「颯真くんは~、仕事中に私の靴の匂いを嗅いでぇ~、臭いニオイに興奮してオナニーしましたかぁ~?♡」
「──ッッ♡♡♡」
羞恥と屈辱で身体が燃えるように熱くなった。
その熱は下半身へ集まりますます血流量を増大させる。
足裏に潰されている屹立が破裂しそうな程硬くなっている。
だがもう認めるしかなかった。
「はい……♡ しました……♡」
「ふふ……♡」
穂村さんが満足げに息を漏らしたのが聞こえた。
足の裏が一瞬だけぴくりと動く。
「よく言えました~♡ えらいねぇ~♡ 颯真くん~♡」
──ぐいっ……♡
左足が鼻先から離れていく。
至近距離にあった臭いの源泉が遠ざかるとともに、嗅覚を犯し続けたニオイが引いていく。
途端に襲ってくるのは猛烈な喪失感。
足りない……。
足りない足りない足りない足りない。
まだ嗅いでいたかった。
臭いを肺一杯に吸い込みたかった。
「あ……」
「なぁに~?不安そうな声だしちゃって~♡」
「もうおしまいなの〜〜? って思っちゃったぁ~?♡ もっと嗅ぎたいって思っちゃったのかなぁ~?♡」
「~~~ッッ♡♡♡」
図星。
的確に心を抉ってくる。
「だけどぉ〜……こっから先は、颯真くんがおねだりしないと嗅がせてあげな〜い♡」
「うっ……くッ……」
歯を食いしばる。
たかだか女の、それも蒸れてすえた足の臭いなんかをねだって懇願などと……男としての矜恃がそれを拒絶していた。
しかし──。
「んふぅ〜♡」
穂村さんは俺の前に掲げた足先のソックスを摘むと、ゆっくりと引っ張り始めた。
──むわぁ……♡
足裏の熱を封印していた布が解かれ、空気にさらされた肉色が露わになる。
陽の光を浴びることのない足の裏は白く、しかし、穂村さんの発汗の良さを象徴するかのように、少しばかり血色の良いピンクに染まっていた。
「ふぁっ……♡♡♡」
「んふふ〜♡ 変態さんはきっと、ソックスよりも生の方が気にいると思うんだよね〜♡」
足裏が揺れた。
舞い上がった匂いがこちらへ漂う。
──すんっ♡
「あ"ッッ♡」
先ほどまでソックス越しに感じていた匂いと質が違う。
遮るものがない生の足裏から噴き上がる臭気はより野性味に溢れていて。
それになんだ、この巨足はッッ!!
穂村さんの素足──それは信じられないほど大きく、分厚かった。
穂村さんの巨体の重みを支えるために発達したであろう分厚い母指球の膨らみ。
その広さは男の顔面など容易く踏み潰してしまえそうなほど。
土踏まずは滑らかで大きく窪んでおり、踵は分厚い角質に覆われながらもしっかりと丸みを帯びていた。
足全体の逞しさに負けず劣らず、足の指すらも一本一本が規格外の太さをしていた。
中でも体重移動の基点となる足の親指は、自身のそれと比較しても明らかに太く、お菓子売り場に並ぶ棒付きの球形キャンディよりも一回りも二回りも大きかった。
指のサイズに付随して、爪もまた立派であった。
丁寧に切り揃えられてこそいるが、その一枚一枚の厚みは間違いなく丈夫で、かつひとたび伸びれば鋭利な凶器になり得るだろう。
足の大きさも長さも肉の厚みも全てにおいて俺より上回ってしまっている剛健な巨足が、一日のハードワークに耐えて稼働すれば如何ほどのニオイを纏うことになるのか──それは想像に難くなく。
一見柔らかそうでいて、極めて強靭な穂村さん自身の肉体を凝縮したようなその素足は、恐るべき破壊力を持って俺の目に飛び込んできていた。
「颯真くん〜♡ このままだったらぁ〜、私のこのデカ足嗅げなくなっちゃうけどいいのかなぁ〜?♡」
──ぐにぃ……♡
足の指が動いた。
何かを握り締めるように、太く逞しい足指が折り曲げられて、白く血の気が引いていく。
──ぎりぎりぎり……♡
魅了されていた。
その力強さに。
己にはない圧倒的な生物としての格の違いに。
幸運なことに、今世は身体的な強さが生きることに直結しない。
しかし世が世であれば、俺のような小さく華奢な男は、このような足を持つ女性に対し遥かに劣っていたであろう。
ここではあんなに仕事が遅くて間抜けなのに、例えばそう……狩猟民族であれば、彼女は俺よりはるかに良く狩りをするに違いない。
もっと言えば、俺が獲物として狩られる側に回っていてもおかしくない。
そして、握り締められていた足の指がゆっくりと解かれ、足裏の肉が元の位置に戻る反動で……。
──むわっ♡
凝縮されたニオイが一気に放出された。
「あ"ッッ♡♡♡」
脳髄を沸騰させるような強烈なフェロモン。
男の矜恃などという薄っぺらな理性は、あまりにも容易く消し飛んでしまっていた。
本能的な恐怖と同時に抗い難い魅力がその巨足から放たれているのだ。
だめだ。
理性が限界に達する。
もう……耐えられない……。
「嗅がせて……ください……♡」
「え~? 聞こえな~い♡」
「嗅がせてください!! おねがい……します……!!」
叫んでいた。
理性も男の尊厳もかなぐり捨てて。
最早ただのスケベな下等動物として、恥も外聞もなく穂村さんの目の前で、足の裏に向かって懇願していた。
「へぇ〜〜〜、足の裏嗅ぎたいんだ〜〜〜? 臭いのにぃ〜〜〜?」
恥ずかしかった。
世の中にそれほど多く存在するとは思えないこの特殊な性癖を晒し者にされているようで、魂が抜けるほど情けなかった。
そもそも俺は元々そんな趣味なんて持ち合わせていないはず。
この女のせいだ。
この女の巨足が醸し出す強烈なフェロモンのせいで……。
この女に全部狂わされてしまったせいで……俺は……俺は……!
「……だ、だけど……嗅がせて……ください……ッ♡」
「んふふ〜〜♡ よろしい♡」
満足げに頷いた穂村さんが、ズイっと左足を俺の顔の前に差し出してくる。
先ほどまでソックス越しに嗅いでいたのとは異なり今度は何の遮りもない。
布越しではない素足が目の前にある。
「はい♡ どうぞぉ〜♡」
──むわぁ……♡
鼻先から少し遠ざかっていた足が近づいてくる。
ピンク色に染まり、ところどころ土埃や繊維のカスが付着した分厚い足裏が視界を埋め尽くしていく。
「ん"ッッ♡♡♡」
匂いが濃くなる。
鼻が歪みそうになるほどの強烈な臭気。
それなのに……全身が震えるほど気持ちがいい。
素足から立ち昇る匂いはソックス越しよりも更に強く生々しく。
一日中靴の中で蒸らされたその臭いは、理性を蝕む毒の香りだった。
汗と皮脂が発酵した、濃密な足の臭い。
本来なら吐き気を催すような臭いのはず。
なのに身体は興奮し、屹立は鋼のように硬く脈打ち、頭の芯は痺れるように熱い。
──すんっ♡ すんっ♡ すんっ♡
「ん"〜〜ッ♡♡♡」
「あはは♡ 颯真くん鼻息すっごいよ〜♡」
「はぁ……♡ はぁ……♡ はぁ……♡」
「気持ちよさそ〜〜♡ 颯真くんは私の足の匂い嗅いでるときが一番素直でいい顔するね〜♡」
──すんっ♡ すんっ♡ すんっ♡
脳天に響く足の臭い。
俺は一心不乱に穂村さんの素足の匂いを吸い込んでいた。
分厚い踵の上。
土踏まずの窪み。
母指球の膨らみ。
丸みを帯びた足の指。
顔を動かし、匂いの源泉を辿った俺は、ニオイの最も濃い部分を見つけてしまう。
──ツンっ……♡
「ん"ッッ♡♡♡」
足の指の間だった。
すき間なく閉じた足指同士の間に溜まった汗と垢は、靴の中の高温多湿と相まって更に強烈な発酵臭を放っていた。
圧倒的な濃度。
思わず喉が鳴る。
さすがにこんなところに鼻を近づけるのは……と一瞬躊躇したその時だった。
──ずしぃッッ♡♡♡
突如、視界が分厚いピンクの肉壁で埋め尽くされた。
俺の顔より大きな足の裏が覆いかぶさり視界を奪う。
穂村さんの足裏の蒸れた熱と匂いだけの世界に閉じ込められる。
穂村さんが俺の顔面を踏みつけにしたのだ、と分かったのはすぐのこと。
右足は屹立を踏みつけたまま、左足は俺の顔面を踏みつけに。
上下から俺を踏みつけにしてくる穂村さん。
圧倒的な体格差と立場の違いが、この行為によって無意識下へまで刻み込まれていく。
「ん"むッッ♡♡♡」
呼吸困難。
鼻と口は巨大な足裏に塞がれ酸素が不足。
ただし吸入が許されるのは穂村さんの足の匂いだけ。
強烈な圧迫感と何より押し付けられた足の裏が俺の鼻と口を覆うことで体感される、この世の終わりの様な激臭。
窒息させられそうになりながらも必死に吸い込む空気の全てが臭いの塊。
臭い臭い臭い臭い──ッッ♡♡♡
「んふふ……♡ 変態さんは私の足の裏に埋まりたいんだねぇ〜♡」
「ん"ッ……♡ ん"ッ……♡」
鼻腔から取り込まれた臭気が気道を通り、肺に届く。
肺の中へと入り込んできたそれが、肺胞から血管へ、そして血液に乗せられて全身へと巡っていく感覚。
体内の酸素は減り続け、代わりに毒のようなニオイだけが増殖していく。
息苦しさに顔面は血の気が引いて、足裏の圧迫で変形。
顔の凹凸が足の裏の圧力によって、地ならしの如くならされていく。
顎の形も、鼻の位置も、頬の線も全部が穂村さんの足が、綺麗にくっつくための土台と化して。
文字通り穂村さんの足の裏の形と、俺の顔面の形が一対になって互いに噛み合っていく。
「──ッッ♡♡♡」
恐怖と恍惚が同時に訪れた。
呼吸不全による不安感。
沸騰しそうな全身を、穂村さんの足が地面にへばりつかせている。
「あ"ッ♡♡♡」
すると穂村さんは俺の顔面を踏みつけていた左足をゆっくりと離した。
「んはっ♡ はっ♡ はっ♡ はっ♡」
久々に提供される酸素。
しかしその空気の中にもなお濃厚なニオイは、残り香となって残っている。
気がつけば、酸欠で朦朧とした俺の顔を、穂村さんが覗き込んでいた。
顔面は足裏の圧迫で形が変形して赤くなっているに違いなく、それはきっと酷い顔をしているだろう。
「……わかった?」
「ん"お"ッッ♡♡♡」
脳天を雷で打たれたような衝撃。
穂村さんの声色が一段低くなったのだ。
普段ののんびりと間延びした声色とは明らかに違うその落差に、脊髄が反射で反応してしまう。
「男はねぇ、女に本気出されるとさ〜」
──ガサっ。
下の方から布の擦れる音。
穂村さんは右足のソックスも脱いだようだった。
「手も足も出なくなるの」
──きゅっ……♡
屹立の先を、穂村さんの生のつま先が摘んだ。
そして、そのままジッパーの金具を足の指でカチャカチャと弄ぶ。
「……ッ♡」
「女の匂い嗅いで喜んでるくせにぃ、いざ本人を目の前にすると違う違うって逃げ回って〜」
──すり……♡
金具に触れた足先がカリカリという硬質な音を立てた。
「……ッ♡」
「変態のくせに意地っ張りなところは〜……ちょっと可愛いけどぉ……」
足の指先が金具を挟む。
「……ッ♡」
「生意気なんだよなぁ〜♡」
そのまま器用に金具を操作し、ジッパーを下ろしていく。
「あ"ッ♡♡♡」
欲望を閉じ込めていたジッパーが、足の指だけで操作され下ろされてしまう。
下着から顔を出した先端が露わになり。
「ふふっ♡ やっぱりこんなになってる♡」
つま先が屹立の先端を弾いた。
──ピンっ♡
「ん"ッッ♡♡♡」
「匂い嗅いだだけでこんなになっちゃって……」
痺れるような快感。
しかし、それだけでは終わらなかった。
穂村さんの足先が、パンツの隙間から器用に入り込んでくる。
「あ"っ♡♡♡」
内側へ。
生々しい感触が屹立を包み込み、分厚い足の指が亀頭を揉むように動く。
あっという間に外へと引き摺り出されてしまった哀れな肉棒。
ひくひくといななくそれに、穂村さんの足指が迫る。
──ぎゅむぅぅぅ……♡
「お"ッッ♡♡♡」
まるで胸ぐらを掴まれているかのような形で、カリの部分が穂村さんのつま先に摘み上げられていた。
「……捕まっちゃった」
「あ"ッ♡ あ"ッ♡ あ"ッ♡♡」
足指で摘み上げられたペニス。
ひくひくと震えることすら許されず、身動きを封じられたまま足先によって吊り上げられる。
男の象徴たるそれは、女の足指二本に摘み取られていた。
太く肉厚で、俺のものとは比べ物にならないほど逞しい足の指。
生物としての格が違うことを痛感させられる状況。
たったの二本の足指に首根っこを掴まれた男根は、まさしく絞首刑に処されているようだった。
「これからは私の言うこと聞いてねぇ〜♡」
──ゆらっ……♡ ゆらっ……♡
「お"ッ♡ あ"ッ♡ ん"ッ♡♡」
足指が揺れる。
右に左に。
吊り上げられた屹立が揺さぶられる。
カリの溝に食い込み、皮が引っ張られる。
先端から漏れ出した先走りが、揺れるたびに『ぴっぴっ♡』と飛散する。
「……返事」
──クイっ♡
回答を促すように、屹立を握る足指が『きゅっ♡』と締め上げられた。
そのまま『ごしごし♡』とカリの溝を集中的に擦り上げられる。
「ん"ぁああぁあぁッッ♡♡♡」
「きいてる? ちんちん擦られてると、お返事もできなくなっちゃうのかなぁ〜?♡」
答えろ。
答えないとさらに酷いことになる。
身体を蝕む快楽の中でそう悟り、なんとか喉の奥から声を絞り出す。
「きっ……きききききます……ッ♡」
「ん〜♡ そう〜♡ いい子だねぇ〜♡」
──ぱっ♡
解放。
ペニスの首根っこを掴んでいた足指が緩み、解放される。
逃がしてもらえた屹立がぶるんと揺れ、先走りが飛び散った。
全身に変な力が入っていたのか、足指から解放された瞬間に脱力した俺の腰が沈んだ。
しかし安堵したのも束の間。
「それじゃ〜……♡」
──ずしッッ♡♡♡
再び右足の足裏全体で踏み潰される屹立。
床と足裏肉の板挟み。
根元へは足指が食い込み、亀頭の先に土踏まずのアーチのすべすべの部分が当たる。
極上の圧迫。
先端へ向かって流れ込もうとする精液が、根元で足指に遮断されて逆流していく。
「お"ッ♡ あ"ッ♡ ん"ーーッッ♡♡♡」
「じゃー、お説教の続きね〜?」
「ん"ッ♡ お"ッ♡」
「今後は〜、仕事ができるからって偉そうにしないこと〜。……わかった?」
──ぎゅむぅぅ……♡ ぎりぎりぎり……♡
踏みつける足裏全体の圧が強まった。
根元の血管が足指に圧迫され、屹立が鬱血していく。
「あ"ッッ♡ あ"あ"ぁッッ♡♡♡」
「返事」
「わっ……わかりました……ッ♡」
「よし♡」
「あと〜……私が近づいたら〜、私を避けて逃げないこと〜。……いい?」
──すりっ……♡ すりっ……♡
圧迫と同時に与えられる擦り刺激。
根元を圧迫して鬱血させたまま先端だけを足裏の肉で愛撫される。
過敏になりすぎた神経が悲鳴を上げる。
「ん"ッッ♡♡♡ わっ……わかりました……ッ♡」
「よし♡」
「あと〜……一番大事なこと〜♡」
穂村さんがニコリと笑う。
「私のことは“様”付けで呼ぶこと♡」
──ぎゅむぅぅぅぅッッッ♡♡♡
「お"ーーーッッ♡♡♡」
別次元の圧力。
屹立が圧迫される。
限界に達した先端に指の腹が押し当てられ、肉を捻じ込むような圧力が与えられた。
皮膚と神経が剥がれるかのような激痛。
痛み。
それは快楽の直前の信号。
背骨を白い光が駆け抜けていく。
「あ"ーーッッ♡♡♡♡」
「ねぇ? “穂村様”って呼んでみてぇ〜♡」
踏みつけられるペニス。
身体中の血液がそこへ向かって流れ込んでいく。
脳みそが快楽の熱で溶けそうだ。
指の腹で屹立の根元がぎりぎりと擦られる。
ペニスを踏み潰して平らになった土踏まずで亀頭を磨かれる。
「くっ……ふっ……♡ そ、それはぁ……♡」
──ぎゅむっ♡
足裏の圧迫が強くなる。
「あ"ーーーッッ♡♡♡」
「ふふっ♡ 出る? 溜まってる精子出ちゃいそう?」
『出る出る出る出る』と心の中で懇願する。
足の裏に刺激され続けている屹立は限界をとうに超えていた。
だが許可がない。
許可が出ない限り、天国の門は決して開かない。
「お"ッ……♡ あ"ッ……♡ あ"あ"あ"ッッ♡♡♡」
「出したかったら、“穂村様”って呼んでみてぇ〜♡」
──ずりっ♡ ずりっ♡ ずりっ♡
前後に擦られる。
先端から根元まで、足裏全体で前後に。
全身の力が抜けていく。
最早腰すらも座っていない。
穂村さんの左足から降り注ぐ臭気は絶えず鼻腔を支配し、右足は屹立を無慈悲に踏みつけている。
快楽と臭気と圧迫感と屈辱。
全てが混ざり合い理性を粉々に粉砕する。
「ほ……ほむら……♡」
「ん〜♡ 聞こえな〜い♡」
──ぎゅむっ♡ ぎゅむっ♡ ぎゅむっ♡
「お"ーーッッ♡♡♡」
「ふふ♡ ほら? もう限界でしょ〜♡ 言わないと一生このまま足踏みされ続けることになるよ〜♡」
「ほ……ほむら……さ……ま……♡」
「んふふ♡ ほむらさま?♡」
「ほむらさまぁ……♡」
「はい♡ 私の可愛い変態さん♡」
──ぴくんっ♡
足裏の圧迫が一瞬だけ緩んだ。
「ほむらさまぁ……♡」
「はい♡ いい子♡ いい子だねぇ〜♡」
──ぴたっ♡
そして、緩んだ足が止まる。
「出していいよ〜♡」
「あ"ーーッッ♡♡♡」
許可が下りた。
全身の血液が下半身へと雪崩を打ち、先端へ向かって猛スピードで駆け上がっていく。
視界が真っ白に弾け、背筋がのけぞり、閉ざされていた天国の門が一気に開かれる。
──びゅっ♡ びゅるるっ♡ びゅくびゅくッッ♡♡♡
「お"あ"ーーーッッ♡♡♡♡」
股間から全身へ広がる爆発的な快楽。
脳天を突き抜けるほどの絶頂感。
恥も外聞もかなぐり捨て、腰を突き出して精を吐き出し続ける俺。
確実に何かを失っていた。
男としての尊厳。
プライド。
有能バイトとしての自負。
それらが、穂村様の足の裏の下で、搾り出されて、踏み潰されて──。
──びゅっ♡ びゅくっ♡ どぷっ♡ どぷっ……♡ とぷ……♡
ようやく長い吐精が終わる。
最後の一滴まで吐き出し終えるまで、穂村様は足を一切動かさなかった。
ひくひくと震えて吐精する屹立の上で、ただ静かに君臨していただけ。
それだけなのに、俺という一人の男から子種を根こそぎ搾り取ったのだ。
その余裕と支配力に、俺はただ圧倒されるだけだった。
「ふふ〜♡ いっぱい出たねぇ〜♡ 颯真くん♡」
「はぁ……♡ はぁ……♡ はぁ……♡」
「よく出せたねぇ〜♡ えらいえらい♡」
頭を撫でられる。
当然足で、だ。
今までの人生において頭を足でぞんざいに扱われることなんて想像もしていなかったが、今の俺にはそれが最高の褒美に感じられていた。
何もかもが狂っている。
肉の壁に押し潰され臭気に脳を犯され、足裏の摩擦で射精してしまったのだ。
悔しい。
情けない。
そんな負の感情が湧き上がってくるのに。
──ぴくんっ♡
屹立はまだ力を失わずに震えていた。
一回の射精じゃ足りない。
物足りない。
この女の足の下で、もっと、もっと搾られたい。
そう思ってしまっていたのだ。
「……♡」
「ん〜? どうしたのぉ〜♡ そんな目で〜♡」
穂村様が目を細めて笑った。
長い睫毛の向こうから、俺を覗き込む。
「くすっ♡」
穂村様が頭を撫でていた足をどけた。
言いようのない喪失感が全身を襲ったが、それもすぐ杞憂に終わる。
──べちんッッ♡♡♡ ぐしゃぁッ♡♡♡
「ん"ん"ッッ♡♡♡」
高く高く掲げられた左足の裏が、顔面を一気に踏み潰したのだ。
上から押し付けられた足裏の重圧に顔が歪み、首が揺さぶられる。
押し付けられた足裏の匂いが鼻腔を埋め尽くし、視界は血色の良い薄いピンク色の肉壁で覆われ、口と鼻は分厚い足の裏で塞がれて再び息苦しさに襲われる。
射精の時は、足裏を向けられた俺が匂いを求めて顔を寄せていた。
でも今は、違う。
穂村様が自らの意思で、俺の顔の上に足を乗せて、踏み潰したのだ。
さっきとは全く状況が違う。
自発的に匂いを求めていただけの時とは違い、今の俺はこの巨大な女の足の下に、忠誠を誓う臣下の如く、平伏しているのだ。
「ちょうどいい足置きじゃ〜ん」
──ぐりッ♡
顔面を踏み潰している足の位置を微調整しながら、穂村様が笑う。
まるで余興を指示する王のように、言ってみせた。
「おい、お前♡ 私の足の裏でオナニーしろ」
「えぁ……」
──ぐりぐり……♡
「ん"ーーッッ♡♡♡」
踏み潰す左足の力が強まる。
鼻っ柱が曲がり頬骨が潰れ口と鼻は蒸れた生の足裏に押し付けられ、呼吸困難。
逃げようにも体重に耐えられない首が足の重みを支えきれず、視界は潰された肉壁と汗と生暖かい臭気に覆われ、機能不全に。
視覚情報を失った脳は残された嗅覚に過敏になってしまう。
──むわぁぁぁ……♡♡♡
極上の足の臭い。
生の足裏から噴き出す、汗と垢の強烈な発酵臭。
呼吸困難になりながら、本能的に息を吸い込めば、全身が蕩けるような快楽に包まれる。
それはまさしく毒の香り。
穂村様の素足から立ち上る、これ以上ないほど濃密なフェロモンであり、俺の心に纏わり付いて離れなくなった、魅惑の臭い。
「踏んでてやるから♡」
──ぎゅっ♡
右足に再び体重が乗る。
屹立が足裏の下で悲鳴を上げてひしゃげていた。
痛い。
痛いはずなのに。
それでもペニスは硬く立ち上がり始めた。
俺の身体はもう狂ってしまっているのだ。
「あはっ♡ 勃起したぁ〜♡ ……ほらほらぁ♡ 私の足の裏に向かって腰振ってみなさ〜い♡」
顔面を踏みつける足から伝わる響き。
骨格を震わせ脳髄にまで響く命令。
圧倒的な支配力。
逆らえるはずもなかった。
俺は素直に腰を振り始める。
──ずっ……♡ ずっ……♡
ペニスを足裏に擦り付ける。
素足の生々しい感触が屹立全体を包み込む。
汗で湿った滑り。
熱を帯びた皮膚の摩擦。
肉と肉が擦れ合う生々しい感触。
さっきぶちまけた精液が潤滑の役割を果たし、ペニスは吸い付くように穂村様の足裏に沿って動いていく。
「あ"ッ♡ あ"ッ♡ あ"ぁぁッッ♡♡」
腰が止まらなかった。
顔面をスタンプした足裏がみっちりと張り付き、足の重みで首はあらぬ方向へ。
そり返った背筋は首の悲鳴を無視して勝手にのけぞり腰を振る。
踏み潰された顔面の痛みも呼吸困難も苦しさも、全てが快楽のスパイスへと反転していく。
──ずっ♡ ずっ♡ ずっ♡
──びくびくびくぅッ♡♡♡
「あ〜、足に潰されながらイっちゃったねぇ〜♡」
──ぐりッ♡ ぐりッ♡ ぐりィッ♡
痙攣に合わせて穂村様の左足が顔面を踏み躙る。
精を吐き出すドンピシャのタイミングで一際強く踏み躙られて、射精と同時に意識がチカチカと明滅する。
射精の快楽と足の裏による圧迫と、そして濃密なニオイとが結びつけられ、穂村様の足置きとなれる悦びで全身が満たされていく。
「あ〜あ……♡ もうすっかりマゾになっちゃった……♡」
足の裏の向こうから穂村様の声が降ってくる。
苦しさに涙目になりながらも、俺は分厚い足の肉に覆われた世界の下で、穂村様の言葉を一言一句噛み締めていた。
「足の裏とセックスの真似事か〜……。クスっ♡ お顔も踏みつけられちゃってるのにね。でも、お前はそれでも気持ちがいいんだ。だってそれがマゾなんだもん。……お前のファーストキスも、射精も、匂いも、全部私のものなんだからね。一生、私の足の下で生きなさい」
──ぴくんっ♡
屹立が最後にぴくりと震える。
もう一滴も出ないはずなのに、その言葉だけで身体が反応してしまう。
穂村様の足裏の世界。
巨大な女の足に踏み潰され、支配されたその空間が、俺にとっての至福になってしまったのだ。
何度も腰を振り足裏に顔を擦り付け精を吐き出し続けながら、俺は完膚なきまでに敗北したのだと自覚する。
「お前の大事なものは全部私が奪ったんだから、もう私の言うことを聞くしかないよねぇ〜」
──ぐりっ……♡
潰された鼻先が微かに揺れる。
足裏の向こうで、穂村様の声がゆっくりと続く。
いつもの間延びした声音ではなく、俺の上に君臨する女王様の響き。
「いいよ〜? これからも支配してあげる。お前のこと、飼ってあげる。だから一生、私の足の下にいなさい。私の足の臭いを嗅いで、私の足に擦り付けてオナニーして、私が許可してあげた時だけ射精するの。……それが、これからのお前の優先順位」
「あはは。足の裏から伝わってくるよ? お前が今、何を考えてどうなっちゃってるか……。全部私にはお見通し。……あ、ほら。またイった。きもちぃ? ふふっ。きもちぃよね。何もかも支配されて、頭の中まで私の足のことでいっぱい。ちんちんも、心も、私の足の前に平伏しちゃってるんだ」
その言葉と共に足裏がゆっくりと顔面から離れた。
酸素が肺に戻ってくる。
しかし、それと同時に世界が急に寂しくなった。
足裏の圧迫と臭気が消え去った今、自分が何者でもないただの男に戻ったような喪失感が襲ってくる。
顔面に残る足裏の感触。
踏みつけられた跡がジンジンと疼く。
穂村様はパイプ椅子から静かに立ち上がり、俺の前で仁王立ちになった。
見下ろす視線。
高さの違いだけじゃない。
その圧倒的な余裕と身体全体から放たれるオーラの前に、俺の首は自然と垂れていく。
「あはっ……♡ しちゃったね。土下座♡」
──ぎゅむぅぅぅ♡♡♡
「〜〜〜ッッッ♡♡♡」
床に両手と額をつけた俺の後頭部に穂村様の足が乗せられる。
精液に塗れて汚れていることなど気にも留めずに、穂村様は俺の頭を床へと押し付けた。
視界の端に映るのは、大地を踏みしめる穂村様の足の先。
反対の足が今、自らの後頭部を踏み躙っているのだと思うと、腰の奥の辺りがジクジクと疼き出す。
「土下座してる男の頭を踏みつけてるのってー……なんかいい気分〜♡」
──ぐりっ……♡
「〜〜ッッ♡♡♡」
後頭部を踏みつけた足裏が少しだけ動き、頭を前後に揺らす。
俺の顔は床に押し付けられ、摩擦で少し熱くなる。
「どうだ♡ まいったか♡」
まいりました。
心の底からそう思う。
この女には絶対に勝てない。
身体的な強さも、立場の強さも、穂村様の前においては全てにおいて俺は圧倒的敗北を喫していた。
頭の回転も仕事の出来も、俺が上回っているはずなのに、何故か穂村様の前では俺の全てが無力になってしまう。
最初のキスも、他人の手による初めての射精。
全部奪われ、逃れようのない性癖をべったりと塗り付けられた。
挙句女の靴の匂いを嗅いでオナニーしてるところを現行犯で見つかり、足の裏で射精させられ土下座させられたのだ。
「返事」
「ん"ぁッッ♡♡♡ はひっ♡♡♡ まいりまひたッ♡♡♡ ほむらさまッッ♡♡♡」
俺は床に這いつくばるただの弱い下等生物でしかない。
穂村様に全力で媚びなければ殺されてしまう。
本気でそう思った。
だから無我夢中で言葉を絞り出した。
「ふふ♡ 素直なのが救いだね〜♡」
穂村様は土下座する俺の頭を足で撫でてから、ゆっくりと足を退く。
ずしりとした重みが引いていく。
視線は自然と穂村様の方へと向いていた。
「じゃ〜そろそろ私帰るねぇ〜♡」
そう言い残し、穂村様は屈み込んで土下座している俺の顔のすぐそばへ──。
「忘れ物取りに来て正解だったなぁ〜♡」
膝の上に頬杖をつき、しゃがみ込んだ高さから俺の目を覗き込んでくる。
至上の笑顔が俺を射抜いていた。
「とんでもない女に目を付けられちゃったねぇ〜♡ 可哀想に〜♡」
そう言うと穂村様は俺の頭をワシワシと撫でた。
それはまるでペットを愛でるような扱い。
俺は抵抗することもなくされるがままに撫でられていた。
悔しいなんて感情はとっくに消え失せている。
ただただ穂村様の掌の感触に心地好さを覚えるだけの存在に成り下がっていた。
そして──。
──バシンッッ♡♡♡
「ん"ぅッッ♡♡♡」
ひとしきり頭を撫でていた肉厚の掌が、俺の頬を打った。
強烈な平手打ち。
視界がぐわんぐわんと振れて、脳が揺さぶられる。
熱を帯びた頬にじんわりと広がる痛み。
だが直後には、その熱を冷ますかのように頬を優しく撫でられた。
激痛の後に与えられる優しさ。
その落差にまたしても屹立がビクビクと反応する。
既に変態の領域へ足を踏み入れている俺の身体は痛みすらも快楽へと変換されているのだ。
「ごめんねぇ〜♡ 私意外とSなんだぁ〜♡」
S……だって?
いやいやいや……。
穂村様は自分が何者か理解していない。
『意外と』とかのスケールじゃない。
絶対に。
──バシンッッ♡♡♡
「返事」
「ん"ぁッッ♡♡♡ れす♡♡♡」
「あははっ。何言ってるかわかんないや♡」
くすくすと笑う穂村様の声が遠くに聞こえる。
──バシンッッ♡♡♡
「あ"ーーーッッ♡♡♡」
「おー♡ 気持ちよさそ〜♡」
──バシンッッ♡♡♡
「おーーーッッ♡♡♡」
「このまま扱いてあげるからねぇ〜♡」
──バシンッッ♡♡♡
──ゴシゴシゴシッッ♡♡♡
「ん"お"お"お"ッッッ♡♡♡」
「きも〜♡」
──バシンッッ♡♡♡
──ギュッ♡♡♡ ギュギュッッ♡♡♡
「ん"ーーーッッ♡♡♡」
「ほら〜、まだまだ頑張れ〜♡」
──バシンッッ♡♡♡
──ビクビクビクゥゥゥッッ♡♡♡
………
##P5 エピローグ@穂村様のために仕事をさせていただく、本当の穂村美羽は……♡
退勤時刻はとうに過ぎていた。
店長から何か連絡があったかもしれないが、確認する気力も残されてはいなかった。
着替えを済ませ店の裏口から外へ出る。
火照った頬に残された穂村様の掌の熱を、心地よい夜風が冷ましてくれる。
いや、残された熱は頬だけじゃない。
全身がまだ熱を持っている気がする。
ジクジクと。
「………………ッ♡♡♡」
歩き出した足取りは重く頼りなく、全身の筋肉が悲鳴を上げる。
心なしかふらつく足は長時間の労働のせいなのか、それともあの後の激しい営みのせいなのか──。
いや、たぶん両方だろう。
スマホを取り出し明日のシフトを確認する。
あぁ、明日も穂村様と同じシフトか。
一週間前までは、穂村さんと同じシフト……と軽いため息をついていたはずだ。
今は……。
それを想像しただけで、腰の奥がじんわりと熱くなっていた──。
………
……
…
翌日──。
「颯真く〜ん。これ先に出しちゃっていいんだっけぇ?」
「あぁ、それは──ッ」
言いかけて口をつぐむ。
穂村さんが持っているのは常温の菓子。
台車の上には冷蔵品が。
今日も、昨日も一週間前も同じこと。
穂村さんは何も変わっていない。
変わってしまったのは俺のほう。
「……冷蔵品からです。それより先に」
棚に向かって作業をしながらそこまで口にしたところで、いつの間にか近づいてきた穂村様が俺をじっとりと見下ろしていることに気づく。
──トクンっ……♡
「──ッ♡」
穂村“さん”だ。
そこにいるのは。
いつもの、とろくさくて、仕事が遅くて、ミスの多い穂村さんだ。
なのに──。
「……ほ、穂村さま……さ、先に冷蔵品をお願いします……」
その、小さくて今にも消え入りそうな俺の声を聞いた穂村様の目がゆっくりと細められる。
「命令……するんだ? この私に?」
「あ……あっ……ぁ……い、ぃぇ……」
──むわっ♡
穂村様が一歩近づいた。
あの強烈な匂い。
俺を支配する甘い毒の香り、穂村様の身体の匂い。
それが鼻先を掠めた瞬間俺は全身の力が抜けそうになるのを必死に堪える。
「あは♡ 颯真くん顔赤いよぉ〜?♡」
「そ……それは……穂村さまが……ちかくて……」
「私が近くて……どうしちゃったのかなぁ〜?♡」
「……ッ♡」
穂村様に迫られて、俺の身体は条件反射のように反応してしまう。
穂村様の匂いが漂うだけで股間が硬くなり視線は自然と彼女の足元へ。
俺の行動原理は仕事から穂村様への絶対服従へと書き換えられてしまったのだ。
「ねぇ颯真くん♡」
「は……はい……」
「昨日のこと〜……忘れてないよねぇ〜?♡」
──ドクリッ♡
心臓が跳ねる。
忘れるはずがない。
あの濃密な足の臭い。
踏みつけられて何度も搾り取られた快楽。
土下座して頭を踏まれた屈辱と快感。
全てが鮮明に焼き付いている。
「わ……忘れてません……」
「へぇ~♡ じゃあ、どうすればいいかわかる〜? 私今日はもう疲れちゃったからさ〜♡」
穂村様はそう言って俺に背を向ける。
「……ッ」
俺の視線は自然と穂村様の背中へ。
否その下へ。
豊かなヒップの曲線。
その下に続く太く逞しい両脚。
そして今日も履いている仕事靴。
──ドクンッ♡
勃起した。
条件反射のように。
穂村様が背を向けただけなのに。
その巨大な身体を見ただけなのに。
俺はもう……。
「……ッ」
俺は台車を押して穂村様の横へ並んだ。
「……残りは俺がやりますから。穂村様は休憩なさってて下さいッ♡」
「ん〜? 颯真くんがやってくれるの〜?」
「はい……。穂村さまが……お疲れのご様子なので……」
「んふふ〜♡ じゃあお言葉に甘えて〜♡ ……あ、その前に〜♡」
穂村様が耳元に顔を寄せてくる。
生温かい吐息と甘い匂いが鼓膜を犯す。
「今日のシフト終わったら〜……バックヤードに来てねぇ〜♡」
──トクンッ♡
「はい……♡」
「んふふ〜♡ じゃあ私は、私のシフト全部を颯真くんと一緒にしてもらえるように、店長にでも頼んでこよ〜っと♡」
「はい、わかりました……穂村様……♡」
「楽しみだねぇ〜……♡」
「ッッ♡♡♡」
それだけ言うと穂村様はいつものようにのそのそと歩き出し、休憩スペースの方へと消えていく。
残されたのは俺一人。
台車の前で俺は立ち尽くす。
手にはまだ未開封の段ボール。
やらなきゃいけない仕事は山積み。
だが頭の中はバックヤードのことでいっぱいだった。
バックヤード。
あの狭い空間。
穂村様の匂いが充満するあの空間。
「……ッ♡」
また行かなきゃいけない。
今度は自ら足を運ばなきゃいけない。
命令されたから。
穂村様に呼ばれたから。
ただそれだけの理由で、俺は喜んで囚われの身になりに行くのだ。
「優先順位……か……」
以前なら仕事の効率や売り上げの数字が最優先だった。
だが今はもう違う。
俺の最優先事項は一つだけ。
「穂村様の言うこと……聞く……」
俺は呟くと段ボールを台車の上に置いて仕事に戻った。
しかし頭の中には穂村様の匂いと足の裏の感触しか残っていなかった──。
………
「……あ、そういえば〜」
休憩スペースの自販機の前に立つ穂村美羽は缶コーヒーを買おうとボタンに指を伸ばしかけて、ふと思い出したようにぽつりと呟いた。
「私、今日の夕方までにやらなきゃだった仕事……忘れてたんだよね〜。棚卸し用の資材、特売会場の設営……いっぱいあるはずなのに〜。なんだったかなぁ〜?」
彼女はしばらく首を傾げていたがすぐにいつもの調子に戻った。
「ま、いっか〜♡」
ボタンを押す音と共にガコンと缶コーヒーが落ちてくる。
「だって今日は颯真くんが全部やってくれるし〜♡」
それを手に取った美羽はくるりと踵を返す。
「店長さんも、ちょっとお願いしただけで、すぐ根を上げちゃうんだからさ〜♡」
左手には買ったばかりの缶コーヒー。
そして、ポケットに突っ込まれた右手の中には小さな小さな鍵が握られていた。
それはスーパー中のどの設備とも合致しない、店長を意のままに操る秘密の鍵であった。
それと対をなすように、首元にはチェーンを通してぶら下げられている同じ形状の、しかし新品の鍵があった。
首から下げた鍵とポケットの中の鍵。
この二つは穂村美羽の管理下にある。
彼女はそれを誰にも渡さない。
「……あ〜♡ 暑いなぁ〜♡」
仕事で汗をかくのとはまた別の理由で、美羽は火照った身体を冷まそうと、自販機の横の扇風機へ向かった。
彼女は扇風機の風を浴びながら目を細めて微笑む。
「……このバイト、やめらんないよね〜♡ クスっ♡」
誰もいない休憩スペースに響く楽しげな声は、猫のそれに近かった──。
【終わり】